最近聴いたCD

E.ショーソン:詩 曲(ヴァイオリンと管弦楽のための)

シャンタル・ジュイエ(ヴァイオリン)
シャルル・デュトワ指揮 モントリオール管弦楽団


ショーソン(1855-96)の作品中で最も知られているこの曲は、

ロシアの作家ツルゲーネフの小説「愛の勝利の歌」の、神秘的な物語にインスパイアーされて、交響詩として着想されたもの。

しかし作曲途上で、小説の持つ神秘性を絶対音楽の領域にまで高めようと意識したショーソンは、

結局標題を取り去って、オーケストラと管弦楽のための「詩曲」として発表しました。


この曲を初めて聴いたのは、中学生の時でした。

サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」が欲しくて買った「ヴァイオリン名曲集」の中に、たまたまカップリングされていた1曲です。

決して馴染み易い曲ではなかったのですが、当時私が持っていたLPは、せいぜい5〜6枚で、

聴くものがないから、仕方なく何度も聴いていたというのが実情でしたが、

そのうちに、自然と全曲を口ずさめるようになりました…。

むせかえるような官能的な愛を歌ったこの曲、

名前すら口に出せずに、秘かな片思いに 鬱々としていた中学生の私には、

複雑に感情が交錯するこの曲の内容を汲み取ることなど、できようはずもありません。

ただ、神秘的な雰囲気の中に、異性を愛することの甘美さ、切なさだけを感じていたと記憶しています。

そして、我家のLPの枚数が少しづつ増えるに伴って、この曲を聴くことは、いつの間にかなくなってしまいました…。


今日、40数年ぶりにエントリーしたディスクを聴きました。

冒頭の仄暗さの中に明滅する灯火は、官能的な心の揺らぎが感じられますし、

その中から浮かび上がるソロ・ヴァイオリンの音色は、愛おしい人を思う吐息のよう…。

もだえるような苦しみが昂ぶり、

海鳴りのように轟くティンパニは、断崖絶壁に佇むかのように、

ぎりぎりまで追い詰められた、死に至る官能までもが表現されているよう…。

更に感情は高まり、

やがてうっとりとするような、至福のひとときへと至ります…。

19世紀末のフランス文化の香りなのでしょうか。

お国は違いますが、世紀末のウィーンを描いた、クリムトの絵画を髣髴する逸品!

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