最近聴いたCD

W.A.モーツァルト:弦楽五重奏曲第3番 ハ長調 

メロス四重奏団他


1787年の春に作曲されたこの作品の自筆譜には、モーツァルトには珍しく多くの訂正個所が見られるとか。

弦楽四重奏にヴィオラを加えた編成で室内楽の精緻な響きを生みだすには、さすがのモーツァルトも、様々な試行錯誤を繰り返した証だとされています。

そのおかげで、弦楽四重奏では味わうことが出来ない、

ヴィオラパートの分厚い響きが醸す深い陰影を聴き取ることができる、実に奥深い味わいのある作品に仕上がっていると感じます。

彼が書いた6曲の弦楽五重奏曲のいずれもが、高い評価を得ているのは、そんな作曲の経緯に由来しているのかもしれません…。


メロスSQのディスクは、清明の気が漲る第1、4楽章と、

ヴィオラパートの響きがとりわけ印象的な第2、3楽章の対比が、素晴らしく印象的な演奏です!

【第1楽章:Allegro】

冒頭、ヴィオラが刻むリズムに乗って奏されるチェロの毅然とした表情と、それに応えるヴァイオリンの柔らかな響き、

清明さの中にほのかな憂いを含んだ、絶妙のアンサンブルで開始されます。

私が初めて聴いた、この曲の名盤とされる演奏では、感情の表出があまりに強く、息苦しく感じたものですが、

メロスSQでは、感情が弛緩することなく絶妙に抑制されており、心地良さすら感じられる演奏!


【第2楽章:Menuetto-Allegretto】

淀みなく流れるメヌエット部ですが、

ヴァイオリンと対話するヴィオラの落ち着いた響きからは、

何かを模索しつつも、解決の見えない、そんな趣が感じられます。

トリオ部でも模索は続きますが、僅かに光明が見出せる明るい旋律が…。


【第3楽章:Andante】

第2楽章と比べると、安らぎがほの見えてくるのですが、

ヴィオラの奏する旋律は、未だ安定には至らない、若き日の心の逍遙を彷彿とさせるもの。

趣深い内容を伴なった、傾聴すべき楽章だと思います。


【第4楽章:Allegro】

終楽章は、大規模なロンド楽章。

ここに至って、清々しい愉悦感に溢れた豊穣な音楽が、天真爛漫に展開されていきます。

モーツァルト晩年の無垢な清らかさに誘われて、音楽を聴く悦び、ここに極まれり!

そんな素晴らしい音楽が展開されます。


名曲と言われry作品の中でも、私の大好きな曲の一つ。

今回はメロ四重奏団の演奏を採り上げましたが、

生涯、様々な演奏で愉しみ続けたい、懐の深い作品です。

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