長崎県の某私立学園の校長として赴任したアメリカ人宣教師の妻で、当地に在住したことのある実姉から聞いた実話をもとにして、
1898年に短編小説「マダム・バタフライ」を書き上げました。
この小説を題材にして、劇作家ディヴィッド・ペラスコにより1900年に同名で戯曲化、
更にこれらを基にして、1904年にプッチーニによってオペラ化されました。
遥か東方の国日本でのこんな話題が、アメリカ国内で小説や戯曲として採り上げられた背景には、
アメリカ軍の士官が、海外の赴任先で女性を妻として迎え、
任期を終えると、妻子を残して帰国してしまうという風潮に、批判の声が上がっていたのかもしれません。
オペラに登場するアメリカ国歌が、国際大会の表彰式で奏されるような威風堂々としたものではなく、
どことなくしょぼく聴こえるのは、そんな風潮に対するプッチーニの批判が表わされているのかもしれません…。
エントリーするのは、シノポリ指揮するフィルハーモニア管の演奏。
内容的にはヴェリズモ・オペラの域を出ない作品だと思うのですが、
オーケストラ伴奏が、登場人物の心の機微を見事にサポートしていると思います。
そして何よりも、プッチーニ特有のカンタービレに溢れた甘美で美しい旋律が、随所で聴かれるのです。
例えば、第1幕後半部、ピンカートンと蝶々が歌う「夕暮れは迫り」以降の、静謐さの中に溢れる幸福感や、ロマンティシズムの極致とも言えそうな甘美な二重唱ー…。
第2幕で、ピンカートンの乗る船が入港してくるのを見て、再会への期待をつのらせる「ある晴れた日に」。
喜びに打ち震える感動を表現したアリアやレシタティーヴに対し、
伴奏するオケ部が表現する漠然とした不安感との対照の妙…。
第2幕終了部、夜を徹して、いつまでもピンカートンの帰宅を待ち続ける蝶々さんのバックに流れる「ハミングコーラス」の、
根なし草のように漂う表現の見事さ!
勿論、随所に挿入される日本の歌も、不自然さはなく、日本の情緒を楽しめるものです。
ただ、時折中国的な情緒が混入するところは、ご愛嬌ということで目を瞑るとして…。
ストーリーの内容はともかくとして、プッチーニの書いた美しい旋律と、耳馴染んだ日本的な情緒を楽しめるオペラ。
ピンカートン役のカレーラスの、まさに適役と思える歌唱は、とりわけ秀逸でした!