彼のオリジナルなピアノ協奏曲の第1作は、17歳の時に書かれた第5番ということになります。
以前は「習作の域を出ない作品」との評価が一般的だったこの曲ですが、
1994年、S.リヒテル来日公演(サントリーホールでのライヴ録音)での、慈しが込められた美しい演奏に感動!
それ以来この曲の演奏には、自ずと関心が向くようになりました。
とは言っても、今日エントリーするのは、やはりその時のライヴ録音。
これほど慈しみに溢れた演奏には、そうそう巡り会えるものではなさそうです。
第1楽章:Allegro
オーケストラだけで奏される明るく晴れやかな冒頭部から、愉悦感が漂うバルシャイの指揮。
リヒテルのピアノが奏する愛らしい第1主題は、いとけない子供に注がれる視線のように、慈しみに満ちたもの。
全3楽章を通して、温かい感情に包まれた演奏です。
洗練されたとは言い難い第1楽章ですが、
時折後期の作品を思わせるような、神々しいまでに澄み切った楽曲が顔を覗かせる。
リヒテルの演奏からは、この曲の持つそんな魅力が、巧まずして浮き彫りにされているように感じます。
第2楽章:Andante ma un poco adagio
ホルンののんびりとした響きに導かれるように登場する、ピアノの穏やかな響きは、パストラールな雰囲気を醸すよう…。
特に刻々と感情が変化していくようなピアノの音色は、心地良いまどろみを彷彿させてくれる、超一級の癒しの音楽!!
第3楽章:Allegro
弦の高音部のユニゾンで開始される冒頭部は、中期以降の作品で聴かれるフーガ楽章のように、果てしない拡がりを期待させるもの…。
「弦楽四重奏曲第14番」や「交響曲第41番」の終楽章のような壮大な展開に至らないのは、この技法にまだまだ習熟していないからなのでしょう。
しかし、フーガへの試みが随所に顔を覗かせるこの楽章は、未熟さが感じられるものの、生命力と推進力に満ち溢れた、胸躍る音楽!
演奏者の深い洞察力によって、作品の有する生命力を、最大限以上に引き出した演奏と感じました。