消失したヴァイオリン協奏曲二短調を編曲したものらしいのですが、
原曲となった作品自体が、他の作曲家の作品であるという説もあり、その問題は未だ解決していないようです…。
それはともかくとして、このチェンバロ協奏曲の第1、2楽章が、カンタータ146番「われら多くの苦難を経て」に、
第3楽章が同188番「われはわが信頼を」に転用されていることから推しても、
原作が自作or他作かはさて置き、バッハ自身のお気に入りの作品だったことは間違いなさそうです。
それに、『マタイ受難曲』を蘇演したメンデルスゾーンが、ピアノ協奏曲として演奏した記録が残されているとか…
バッハ全集の出版を推し進めたシューマンが、「バッハ最高傑作の一つ」と賛辞を惜しまなかったとか…
彼らのようにバッハの音楽を熟知した大音楽家にとっても、魅力に溢れる作品だったのでしょう。
エントリーする演奏は、シフがピアノを弾きながらヨーロッパ室内管を指揮したもの。
1738-9年にかけて作曲(編曲)されたといわれるこの作品が、
典雅さを湛えながらもモダンで初々しく響き、
含蓄深い内容を語りかけてくるような、そんな魅力に溢れた演奏です。
第1楽章:Allegro
オーケストラによって問いかけるように開始され、ピアノが先ずきっちりと対応する冒頭部を聴いただけで、
どこかの国の国会討論とは違って、「これから大人の会話が始まるんだぞ」という期待感に、胸がワクワクしてきます。
心地良い流れの中で、ピアノとオケが共に思索し、共に感興を高めながらも、
随所で当意即妙なやりとりが繰り広げられて、
それに聴き入りながら、充実したひとときを過ごすことが出来ました。
第2楽章:Adagio
謎かけのような、ミステリアスな雰囲気で開始される第2楽章は、解決しない心が逍遙する態を髣髴します。
神々しさにまで昇華された悲しみが典雅さを極める、世にも稀な高貴な音楽と思います。
第3楽章:Allegro
ピアノとオーケストラの滑らかな横の流れが、あたかも天上を舞う愉悦感を表現した素晴らしいもの。
「バッハのチェンロ協奏曲をピアノで弾くのは邪道」との声を、耳にしたことがあります。
その上、評判の高いカール・リヒターのチェンバロでの弾きは、未だ聴いたこともないのですが、
シフの演奏を聴いていると、楽器云々なんてどうでもいい議論ではないかと、つい思ってしまいンす。