その後しばらくは放置されたままでしたが、1774年頃に終楽章が書き加えられました。
その間、弦楽四重奏の編成で、同第2〜13番や、ディヴェルティメントK.136〜8が完成しており、
何故モーツァルトがこの曲に第4楽章を加えて発表したのかは不明ですが、
1778年にパリに演奏旅行兼職探しに出かける際には楽譜を携行していますし、
同年父親に宛てた手紙にも、「ローディの宿屋で夕刻に作った四重奏曲」として触れられていることからも、
彼にとっては愛着の強い自信作だったことは、間違いないようです。
演奏は、ハーゲン弦楽四重奏団によるもの。
第1楽章:Adagio
僅か14歳の少年が、彼の晩年に書かれた名作の緩徐楽章にも通ずる、穏やかで静謐さを湛えたこのような音楽を既に書いていることに、先ず驚きました。
勿論、晩年の作品のように、艱難辛苦を体験して初めて得られるのであろう深遠さは求めるべくもありませんが、
普遍的な幸福感は、弦楽四重奏曲の最初の作品から、十全に表現されていると思えます。
第2楽章:Allegro
イタリアの陽光を浴びて疾走するような音楽ですが、「これってフーガ?」と思える書法が、蒼穹に舞い上がるような、素晴らしい躍動感を表現しています。
第3楽章:Minuetto-trio
鳥の囀りを髣髴するような明るく楽しげなメヌエット部と、無邪気で愚直なトリオ部。
第4楽章:Rondeau(Allegro)
第3楽章完成から 4年後に加えられた楽章ですが、
この間に彼は、ディヴェルティメント3曲を含む15曲の弦楽四重奏曲を完成させています。
そのためか、愉しげな音楽ですが。前3楽章と比べると響きが落ち着いているようですし、
中間部ではふと翳りが忍び寄るような、年代による感性の違いも感じられます。
いずれにしても、神童モーツァルトの真骨頂が存分に発揮された、魅力的な作品だと思いました。