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E.トゥビン:交響曲第3番

アルヴォ・ヴォルマー指揮  エストニア国立交響楽団


1940年の6月、トゥビンの祖国エストニアは、スターリンによってソ連に併合され、

翌年の8月までに、約8万人のエストニア人が殺戮ないしは流刑に処せられました。

しかもその年の8月から1944年にかけては、ソ連に侵攻を開始したナチスドイツの傘下に置かれるという、大国の覇権主義に翻弄される悲惨な時期を送ることになりました。

国土面積は日本の1/9、人口僅か134万人(2011年)の小国で、

災いを被った8万人もの人々の中には、彼の親戚や友人・知人も数多く含まれていたことは、容易に推察できます。

交響曲第3番は、1940年12月から1942年10月にかけて、そんな惨状を目の辺りにしながら作曲されたもの。

作曲者自身がまとめた作品リストには、「英雄的」という副題が付けられたこの曲ですが…。


第1楽章:Largo

冒頭部の、明滅する灯火をかざしながら闇の中を進むような、オーボエが奏する寂寥として頼りなげな民謡風の旋律は、どこかパストラール風な穏やかさが漂う印象的なもの。

それに続く舞曲風の旋律は、フーガ風に扱われて力強さを増していきますが、エストニア国民の不屈の魂への讃歌が感じられます。

中間部のクラリネットの冴え冴えとした響きは、夜空に輝くオーロラを髣髴します…。

再び奏される舞曲風の旋律は、より一層の高まり、

最後は、洋々と広がる北海の大海原を思わせるように、勇壮にしめくくられます。


第2楽章:Molt allegro e tempestoso

主部は、民族舞曲を思わせる、力強く激しい音楽。

中間部では、ハープの爪弾きに乗って歌われるヴァイオリンソロは、エストニアの古を語る吟遊詩人を髣髴するような、ロマンティックな趣が…。


第3楽章:Largo maestoso

冒頭のトロンボーンによるファンファーレから、弦楽器によって奏されるゆったりとした行進曲風の音楽は、民族結集に蜂起した人々の静かな決意を思わせるもの。

嵐を予兆させる緊迫した静けさの後に、一気に爆発する人々の怒り!

いったん鎮まった後に、再び激烈な怒りが最高潮に達し、最後は堂々としたテンポで讃歌が鳴り響きます。


「フィンランディア」のように、全国民の愛国心を一つにまとめ上げるような求心力の強い作品ではありませんが、

愛するエストニアの風土や、民衆の憤りが抒情的に、しかし力強く表現されたこの曲。

時代背景を考えると、やや楽観的な印象を受けざるを得ませんが、

それは未来への可能性を希求するトゥビンの心が表現されたものかもしれません。

トゥビンの作品は。もっともっと聴かれて良いものだと思うのですが…。

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