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F,シュミット:歌劇『ノートルダム』間奏曲

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮  ベルリン・フィル(1981年録音)


財源確保を目的とした免罪符の乱発に代表されるように、カトリック教会の持つ権力が民衆を弾圧・排除するような形で膨れ上がり、聖職者たちのモラルも地に落ちた15世紀のパリを舞台に、

美しいロマ(ジプシー)の踊り子を巡る男たちの欲望と、

彼女を愛しつつも、己が持って生まれた境遇に、なすすべもなく翻弄される一人の不遇な男の一途な愛を描いたヴィクトル・ユーゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」(嘗ての邦訳は「ノートルダムのせむし男」)。


ブルックナーに師事し、ウィーン音楽院院長として活躍したオーストリアの作曲家フランツ・シュミット(1802-1885)は、

この報われることのない男の悲劇的な運命を題材にして、1914年に3幕物のオペラ『ノートルダム』を完成しました。

当時のウィーンでは、しばしば全曲が上演されていたようですが…

現在では、第2幕の前に演奏される間奏曲だけが、アンコール・ピースとして演奏会で時折採り上げられています…。


弦を主体にした分厚い響きで奏でられるこの間奏曲は、ハープの伴奏に彩られて、美しくも悲劇的な旋律が、異様なまでに緊迫感を伴なった弦楽合奏によって奏でられ、

その緊迫感は曲が終了まで持続するために、一時たりとも気持が和むことはありません。

ところが曲が終わると、心が清々しくなったような充足感や清涼感に満たされているという、そんな不思議な音楽と感じるのです。


この曲には,LP時代から評判の高かった、カラヤン/ベルリン・フィルによる、1967年録音の名盤(「オペラ間奏曲&バレー音楽名曲集」:DG盤)があります。

美しくも劇的な悲劇性と緊張感に満ちた、カラヤン最盛期の録音と評判高い演奏に、文句をつける気は毛頭ありませんが、

唯一不満に思うのは、間奏曲という曲の性格上もあるのでしょうが、ふっと、唐突に曲が終わってしまうこと!


今日エントリーするのは、同じコンビによって1981年に録音されたEMI盤「オペラ序曲・間奏曲集」に収録された方です。

印象の瑞々しさから言うと、「DG盤の方か…」とも思うのですが、どちらの演奏から受ける感動は同質のもの。

違いは、EMI盤の方は、曲のクライマックス(シンバルンの一撃)以降、余韻に満たされつつ、曲が終了していくことでした。


「何の違いで、この差が生じるのだろう?」と思案しながら、何の気なしに演奏時間を較べてみると…

演奏時間が、DG盤=4′52″に対し、EMI盤=6′12″

こんなに短い曲で1′20″もの差があるのに、

これまで全く気付きすらしなかった私の聴覚って、一体どうなっているのでしょうか?

そのことはさて置いても(個人的には、放っておけない大問題なんですが)、

曲も演奏も素晴らしいと思いますので、是非比較してお聴きになってみてください。

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