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M・ラヴェル:バレー『ダフニスとクロエ』全曲

クラウディオ・アバド指揮  ロンドン交響楽団・合唱団


1909年、ロシアの高名な興行師ディアギレフの依頼によって書かれたバレー音楽。

原作は、2〜3世紀の古代ギリシャの作家ロンゴスの作品で、

捨てられて山羊飼いの夫婦に育てられたダフニスと、同じく羊飼いの夫婦に育てられたクロエの恋を描いた、神話的・牧歌的な物語。

フランス印象派音楽の傑作であり、20世紀のバレー音楽を代表する作品。

特に、第3幕の「夜明け」「全員の踊り」は、女子フィギュアーのプログラムにも度々登場しており、すっかりおなじみになりました。


今日エントリーするのは、アバド指揮するロンドン交響楽団・合唱団による演奏!

一音一音に込められたニュアンスが豊かで、かつ劇的な変化に富んだ演奏からは、

聴き込むほどに、舞台の雰囲気や登場人物の一挙手一投足までもが彷彿できるもの。

バレーを演出するための音楽とは言え、

表現すべき内容が、全て音楽に内包されていると思われるほどに、曲としての完成度が高い上に、

一音すらもおろそかにしないアバドの明晰な表現によって、

一編の長編詩を味わっているような、そんな趣が感じられるのです!


第1部:パンの神とニンフの祭壇の前

古代ギリシャの神話の世界へ誘われるような、神秘的な雰囲気が漂う序奏部。

クロエの愛を勝ち得るために舞踏を競う場面での、ダフニスの優雅な舞と、牛飼いドルコンの不細工でグロテスクな舞…。
二人の仕草や表情が手に取るように描かれ、
取り囲んで眺める人々のため息や失笑までが、見事に表現されています。

愛が芽生え、牧歌的な雰囲気に包まれて、互いの悦びや誓いが穏やかに表出される「優美な踊り」から「ヴェールの踊り」にかけての場面は、聴くたびに心温まる演奏!

海賊によって拉致されたクロエを思い、パンの神に祈るダフニスのうち沈んだ表情…

そして夜の訪れを迎える(間奏曲)第1部最後の一連の流れには、息を呑むような緊迫感と神秘感が漂う、実に見事な演奏!


第2部:海賊ブリュアクシスの陣営

第1部の緊迫感が漂うなか、次第にエネルギー感増し、やがて爆発する「戦いの踊り」の素晴らしい高揚感!

拉致され、うちしおれつつも、気高く振舞うクロエ。その痛々しさが伝わる、「優しい踊り」の表現は、秀逸!


第3部:第1部と同じ祭壇の前

森の神のお蔭で、拉致から解放されたクロエが、ダフニスト再会する場面を描いた「夜明け」。
早朝の静けさに包まれる中、空が明るみ、小鳥のさえずりが聞こえ始め、
無事再会できた喜びに溢れる感動的なこの場面は、自然を描写した音楽の最高峰に位置するものでしょう!
息長く、じっくりと盛り上げていくアバドの見事な棒さばき!

「無言劇」では、クロエを救った森の神の伝説を語る、フルートソロの表現の素晴らしさ!

そして、歓喜が爆発するような「全員の踊り」の高揚感!


クリュイタンスやデュトワを始めとして、数多くの名演奏に恵まれた曲ですが、

おおよそ55分感にわたって、文字通り一瞬たりとも集中を途切れさせずに聴き通させてくれる語りの素晴らしさという点で、

私はこの演奏を最も好んで聴いています。

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