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カール・ニールセン:
狂詩曲風序曲「フェロー諸島への幻視旅行」

チョン・ミヨンフン指揮 イェーテボリ交響楽団


フェロー諸島は、本国からは遠く離れたノルウェー海と北大西洋の間、アイスランドとノルウェーの中間付近に位置する、人口5万人弱のデンマークの自治領。

遠隔地ゆえに、国防と外交の一部を除く権限を有した自治政府が認められており、国家元首はデンマーク国王ですが、フェロー諸島議会によって行政の長たる首相が選出されています。


1927年、デンマークの生んだ偉大な作曲家ニールセン(1865-1931)が、このフェロー諸島から歓迎式典のための音楽の依頼を受けて書き上げたといわれるこの曲。

ただ聴いた印象は、曲名通り空想の船旅と現地での歓迎の様子が描かれたもので、用途としては、むしろ「観光キャンペーン用」と言ったら、失礼でしょうか。


冒頭部、朝靄に包まれた静けさの中に漲る緊張感は、今まさに航海に旅立つ船のエネルギー感を表現しているのでしょうか。

木管や金管の奏する鋭い音色が、船の蒸気タービンを描写しているように感じて、

オネゲルの「パシフィック231」の冒頭部と、ターナーのSLを描いた風景画が入り混じった光景が思い浮かんできます。


希望に満ちた旋律が、伸びやかにホルンで奏でられ、

それを受け継いだ弦楽器によって、大きく盛り上がります。

順風満帆な航海に、旅への期待はますます膨らむ、

バイキングの冒険心に溢れたDNAが、現代にも脈々と受け継がれているような、夢とロマンに溢れた音楽です。


小太鼓によるトレモロで開始される後半部は、フェロー諸島への到着と歓迎式典の模様が描かれているのでしょうか。

祝砲を表わす大太鼓が何発も何発も鳴り響く中、当地の民族舞曲が繰り広げられますが、

これはバイキング時代に北欧で流行し、今はフェロー諸島にしか残されていないというチェーンダンスなのでしょうか?

とにかく、滅茶苦茶に楽しい雰囲気で、祝典は最高潮に達します。


やがて祝典が終わり、

ホルンが奏でる憂愁を帯びた旋律が漂うなかに、夜の帳が下り始め、静寂が訪れる…

こんな内容の音楽なのでしょう。


韓国人指揮者チョンさんのレパートリーの広さに驚かされ、感服することが度々ありますが、

この曲でも、各部位の表情を鮮やかに描き分けられており、

そのおかげでインスピレーションが掻き立てられ、曲を楽しむことが出来ました。、

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