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R.シューマン:ピアノソナタ第1番 op.11 

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)


19世紀のドイツ音楽界に蔓延しつつあった享楽的傾向を苦々しく思っていたシューマンが、観念論哲学の影響を受けながら、文学と音楽との融合を目指して取り組んだ初めての大作。

初版が完成した当初、「フロレスタンとオイゼビウスによるピアノソナタ:クララに献呈」と名付けられたそうです…。


当時、評論家としても既に名を成していたシューマンは、紙上で「ダヴィッド同盟」という架空の団体と会員を設定。

やはり架空の座談会の席上で、それぞれの意見を語り合わせるという手法で、自らの考えを読者に問うていました。

中でも、フロレスタンとオイゼビウスという二人の会員の発言は、シューマンの真意が最もよく反映されたものと言われ、

前者には活発で行動的な、後者には物静かで瞑想的な性格を与えた上で、状況に応じて自らの真意を語らせていたそうです。


初めて書いたソナタという大作に、自らの真意を象徴するような曲名を付けたことから推しても、シューマンの多彩な見識が、溢れんばかりに意欲的に詰め込まれたていると考えても、まんざら的外れではないでしょう。

そのために、演奏技巧上の難度の高さに加えて、ソナタ形式に収まりきらない曲想ゆえの解釈上の難解さが指摘されたのも、やむを得ないことかとは思います。

この曲を初めて聴いたLPのライナーノートにも、確かそんな批評が掲載されていたように記憶しています…。


しかし今日エントリーする、ポリーニ31歳時の1973年の録音は、大きくうねるロマンの奔流の中に、曲に盛り込まれたシューマンの溢れんばかりの才気が迸る、そんな演奏と感じられます。


第1楽章:Introduction:Un poco adagio-Allegro vivace
 深い物想いに耽るようなピアノの厚い響きの中から浮かび上がる透明なそれは、触れれば壊れそうな繊細な感傷を表現しているのでしょう。
若きポリーニの感性が成し得た、大変に印象的な序奏部!
 主部の仄暗さを湛えた旋律と飛び跳ねるようなリズムは、スペイン舞曲のファンダンゴとして構想されたものらしく、柵から自由へと羽ばたこうとする 心の葛藤が想起されます。

第2楽章:Aria
 シューマン18歳時の歌曲「アンナに寄せて」の旋律を使ったもの。.
夢見るような憧れに満ちた、神品のように美しい演奏です!

第3楽章:Allegrissimo ed intermezzo
 スケルッオ部では弾むような力強さと軽快さが入り混じる中、突如ポロネーズ風のリズムによる旋律が登場、
それがレチタティーヴォ風に、懐かしげに繰り返されます。
トリッキーな幻想味を感じさせる楽章!

第4楽章:Allegro un poco maestoso
 弾むように力強い、或いは夢見るように清々しい等々、
様々な感慨が大きなうねりを築き上げながら、憧れに向かって力強く前進する、壮大なロマンを感じさせる楽章です!


感情の起伏を大胆に表現し、かつ高い集中力でコーダへと向かって突き進むポリーニの演奏は、

前述した曲の欠点とも言われる側面を長所として捉えて弾ききった、素晴らしい演奏だと思います。

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