雲ひとつない快晴でしたが、リードを持つ手が冷えて、手袋をしていなかったことを悔やむことしきり…。
数日前までは、朝晩も含めて、家の中で半パン姿で寛いでいたことが嘘のように思える、気候の激変ぶり。
秋の気配が色濃く感じられる蒼穹を眺めていると、センチメンタルな気持に襲われ、悲しいまでに澄み切った音色が奏でる音楽が無性に聴きたくなってきます。
そんな時に思い浮かぶ一つが、1950年に白血病のために夭折したリパッティ(1917,3-1950,12)のいくつかの演奏!
物淋しい秋の気配と、夭折の天才ピアニストの儚さが結びつくのでしょう。
今日取り出した曲は、バッハのパルティータ第1番。
亡くなる年の7月にスタジオ録音された、ディスクです。
病魔に侵されタリパッティは、この録音から2ヶ月後、
最後の舞台となった9月16日のブザンソン音楽祭では、
医師の制止にもかかわらず鎮痛剤を注射しながら演奏に臨み、
そのライブを録音したディスクも発売されています。
彼の白鳥の歌に興味がないわけではないのですが、未だに未聴。
凛と澄み切った明るさの中に、神々しさすら感じられるスタジオ録音を聴くと、
いかなる天才といえでも再現することが出来ないであろう、まさに一期一会の演奏と思えるからです…。
第1曲:Prelude
全曲について言えることなのですが、小細工のない、シンプルで清明な演奏です。
颯爽と弾むリズムの瑞々しさが印象的!
第2曲:Allemande
息も継ぐ間もなく、一気に駆け抜けるフレージングからは、いくばくもない余命を悟ったリパッティの悲しみが痛切に感じられて…。
第3曲:Courante
澄みきった粒立ちの美しいピアノの音色から、川底まで見透せる渓谷の清流が彷彿される、これも素晴らしい演奏です。
第4曲:Sarabande
悲しみの中にも決然とした力強さが感じられるのは、自ら神に近づこうとするリパッティの心境が告白されているのでしょうか…。
第5曲:MenuetsT&U
無邪気で清明な心が表現されたようなメヌエットTの演奏が、とりわけ印象的!
第6曲:Gigue
本来軽快な2拍子の舞曲に、万感の思いが込められているように感じるのは、夭折の天才に対する思い入れの強さからなのでしょうか。
パルティータの演奏は、元来は厳かさの漂うトゥーレックのような演奏を好んでいたのですが、
それとは対極をなすようなリパッティの演奏から受ける大きな感動!
バッハ音楽の懐の深さを感じずにはいられません。