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F.ディーリアス:ブリックの定期市

トーマス・ビーチャム指揮、 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団


ディーリアスが45歳の1907年、オーストラリア生まれの作曲家・ピアニストのグレインジャーが採譜したイングランド民謡「ブリッグの定期市」を変奏主題として用いて作曲した、序奏と11の変奏によって構成される管弦楽曲。

尚、ブリッグはイングランド中東部リンカンシャー州北部にある小さな街で、年に一度だけ定期市が開かれるくらいの、とりたてて特徴のない街だそうですが、

二人の作曲家のお蔭で、今ではすっかり有名になったとか。

曲は夜明けに始まる市の一日の様子が、変奏形式を使うことによって巧みに表現されています。


エントリーするディスクは、ビーチャム指揮するロイヤル・フィルが1956年に録音した、ステレオ黎明期の定評ある名盤。

フルートとハープのアルペジオで開始される序奏部は、

静寂に包まれた田園に鳥たちが囀り始め、

朝靄のベールを通して射し始めた陽の光によって変化する大気の湿り気や温度までをも感じさせる繊細な表現!

昔、上高地のキャンプ場で迎えた朝のような、身も心も丸ごと清められるような、爽やかな感動に包まれます。

こんな瞬間が体験できるだけでも、このディスクは一聴の価値あり!


オーボエによって、主題のイングランド民謡「ブリッグの定期市」が爽やかな哀愁を込めて奏され、それに続いて11の変奏が開始されます。

ディーリアスの作品は、大気の状態を微妙な色彩の変化によって表現するために輪郭が鮮明でない、ターナーの描く風景画に譬えられます。

この曲でも、変奏が進んでも前の残り香が漂っており、どこが始まりで終わりなのか判別し辛いのですが、

そのことによって、時間を追って移り変わる市の情景が、繊細なリアリティーをもって表現されていると感じられるのです。


惜しむらくは、録音が古いせいか、あるいは我家の再生装置との相性が悪いせいか、

多声部での響きの鮮度が今一つのために、繊細な表現が聴き取れていないと思えること。

でも、「願わくば、コンサートホールで聴いてみたかった!」

そんなことが実感できる、素晴らしい演奏だと思います。

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