最近聴いたCD

W.A.モーツァルト:
ピアノ協奏曲第26番『戴冠式』

内田 光子(ピアノ)
ジェフリー・テイト指揮 イギリス室内管弦楽団


モーツァルトのピアノ協奏曲中唯一副題を持つゆえに最もポピュラーではあるのですが、

自筆譜のピアノパートの多くで、左手がスコア化されておらず、とりわけ第2楽章では全く書かれていませんし、

オーケストラパートには、14~25番で成功した木管楽器の豊潤な音色が活かされず、補強声部として使われるのみというちょっと異質な作品。

ブレンデルはピアノパート部を推敲するために、この曲の録音に長らく着手せず、全集の完成が大幅に遅れたように記憶していますし、

内田光子さんも「モーツァルトのピアノ協奏曲の中で、最も弾きたくない曲」と言ったとか、

「自分の作品の中で自分を模倣している」(アインシュタイン)とか、

識者の評価も、決して高くはありません。


で、今日エントリーするのは、その内田さんがテイト/イギリス室内管とのコンビで録音した全集からのものですが…。

第1楽章:Allegro
 テイトの音作りのバランスが絶妙なのでしょうか、
冒頭から落ち着いた佇まいが感じられるオケの響きの素晴らしさ!
声部の補強のためにしか使われていない筈のオーボエの音色が、得も言われぬ味わいを持って聴こえてきます。

第2楽章:Larghetto
 この楽章の演奏は「素晴らしい!」の一言に尽きます。
スタジオでのセッション録音なのでしょうが、ピアノとオケがお互いの音色を聴き合いながら、即興的に音楽を作り上げていく、それこそ一期一会を実感させる演奏!
曲が進むにつれて、音楽の表現が深化していくことから、そんなことを想像してしまいました。

第3楽章:Allegrett
 平明で親しみ易い多彩な楽想に溢れた、心が浮き立つようなロンド形式の楽章。
ピアノとオケのやりとりが時に華麗に、時にメランコリーを感じさせながら、自由闊達に展開されていきます。


LP・CDを含めて、15種類くらいの演奏を聴いているはずですが、昔はそれほど親しみが感じられない曲でした。

しかし、このディスクを聴いているうちに味わい深さを感じるようになり、現在では愛聴盤の一つになっています。

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