あまりの音楽的な偉大さに感銘して、全ての情熱と心魂を傾けて数年間曲の研究に没頭し、世に問うたという、
今や伝説ともなったバッハの最も偉大な作品の一つ『無伴奏チェロ組曲』。
その第1番の「前奏曲」を初めてカザルスの演奏で聴いた学生時代(一般教養としての「音楽理論」の授業で)、
宇宙が鳴動するようなスケールの大きな表現に、鳥肌が立つほどに感動したこと、今でも覚えています。
今思えば、当時は好んで聴けなかったバッハにすんなりと感動できた理由は、
厳格な宗教的神秘主義と、
森羅万象への自由な瞑想から生まれたラプソディックな解釈が、
高次元で調和していたのだろうと、今になって想像しているのですが…。
多くの方々が推奨されるカザルス盤を超弩級の素晴らしい演奏であることは間違いなく、一度は耳にされることをお薦めしますが、
ところで今日エントリーするのは、マイスキーが1984〜5年に録音した旧盤の方。
聴くたびに荘厳な世界に惹き込まれるカザルス盤と比べるつもりは、毛頭ありません。
ただ、この演奏で特に印象的だったのは、
第1曲:Prelude
穏やかな大気の流れに身を委ねるかのように、
気負いのない心身から湧き上がる感情の起伏が、時に意外なほどの高揚感をもたらしますが、
あくまでも洗練された表現の素晴らしさ!
第4曲:Sarabande
思索することの悦び・充足感が、深々とした音楽の呼吸から感動的に伝わってくること!
第5曲:Menuet T、U
奔放に動き回り、気まぐれとも思えるMenuetTに対し、
物悲しさを帯びつつ、わきまえた抑制を感じさせるMenuetUとの対比の妙!
マイスキーはこの録音から15年後の1999年、無伴奏の全曲を再録しましたが、
こちらは、発想がより自由になったためか、バッハの厳かな側面が伝わって来ないように感じました。
良き方向へと「老熟」することの難しさ…。