子宝には恵まれたものの、4人の娘のうち3人を幼くして病気で亡くし、
最愛の妻は胸を病み、若くして幽冥界を異にし、
スメタナ自身も40歳の頃から作曲家として致命的と言われる耳疾患に侵されはじめ、
ついには精神異常をきたして、60歳にして波乱万丈の生涯を閉じました。
そんな病と闘いながらも、1874〜79年にかけて取り組んでいた大作『我が祖国』の合間に書き上げられた弦楽四重奏曲第1番は、
自らの波乱に富んだ生涯を振り返って書かれた自伝的な作品と言われ、
スメタナ自身、この曲に「わが生涯より」という副題を付けています。
エントリーするのは、作曲者の名を冠したスメタナ四重奏団が1976年に録音した、定評のある名演!
第1楽章:Allegro vivo appassionato
時に不穏な空気を感じさせつつも、妻カテルジナや子供たちとの幸福な日々への想い出を回想する音楽。
時の経過では解決し得ない張り裂けんばかりの悲しみが、スメタナ四重奏団の演奏からは伝わってきます。
第2楽章:Allegro moderato a la Polka
ボヘミア的な愉しさ、懐かしさが感じられる楽章。
中間部は、想い出を一歩づつ大切に辿るような、そんな趣が感じられます。
第3楽章:Largo sostenuto
遠く彼岸を見るように、切々とした悲しみの音楽が…。
しかし第1楽章とは異なり、後半部では慈しみへと昇華されていくさまを、スメタナ四重奏団は素晴らしい感動をもって伝えてくれます。
第4楽章:Vivace
心が浮き立つような、屈託のない民族舞曲!
しかし舞曲が止んで、弦のトレモロに乗ってヴァイオリンによって持続される高音は、スメタナを襲った耳鳴りを表わしているとか…。
その後第1楽章の冒頭が奏され、以前からの不安が的中したことを暗示。
絶望的な雰囲気が漂よったまま、解決されることなく曲は終わります。
楽しかった日々の回想や、自らの苦悩を作品として告白することによって、少しでも心の安らぎを得ようとしたのでしょうか?
同時に、大作『我が祖国』に取り組む情熱が、心身ともに疲弊した状態から脱出できる唯一の道だったのでしょう。
私小説的とも評されるこの作品からは、そんなスメタナの心が聴き取れるように思うのです。