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C.サン=サーンス:ピアノ三重奏曲第1番 op.18  

ラヴェル・トリオ


サン=サーンスは、音楽の分野において幼少期からモーツァルトと並び称されるほどの神童ぶりを発揮しましたが、

同時に詩人、天文学者、数学者、画家としても一流と評価されるほどに、多才ぶりを発揮した人物でした。

そんな多才さゆえに、才に溺れるのか、

彼の作品からは、とめどもなく湧きあがる楽想がてんこ盛りされて、時として収拾がつかなくなり、

特に規模の大きな作品では、饒舌に過ぎて曲としてのまとまりに欠ける、そんな印象を抱いている作曲家です。


そんな中で今日エントリーするピアノ三重奏曲第1番は、作曲家34歳の1869年に書かれた作品。

この年、歌劇『サムソンとデリラ』の作曲を開始しており、脂の乗り切った時期の作品と考えて差し支えないでしょう。

全4楽章、演奏に28分ほどを要する作品ですが、

豊かな楽想が盛り込まれつつも、曲としてのまとまりがあり、

気持が散逸せずに聴き通せる、素晴らしい名曲だと思うのです。


弾むような特徴的なリズムで開始される第1楽章は、活発に、愉しげに、時におどけるように、しかし格調の高さを保った、

明るくって愛らしい豊かな楽想に溢れた音楽です。

フランス風のお洒落とは、こういうものなのでしょうか。


第2楽章は、足枷を引き摺るような重々しい音楽と、

遥かな憧れを希求するような内面から湧き上がる歌とが演奏されます。

宗教的な足枷を負った人の行進を髣髴します。


第3楽章は、一転して誇らしげにスキップしながら飛び回るような音楽。

終楽章冒頭のヴァイオリンとチェロが朗々と歌い交わす旋律と、それを支えるピアノの輝きは、

あたかも雄渾に流れる川面に惹お借り輝く陽光を見る思いがする美しさ!

そして、曲の展開に伴って、至福の喜びに浸っていくような、陶酔的な美しさが感じられる作品です。


サン=サーンスの初期作品の中でも、群を抜いて美しく爽やかなこの曲。

トリオ・ラヴェルによるこの演奏は、第2番とカップリングされて、フランスのアリオン・ミュージック社から発売されていましたが、今は廃番となっている様子。

明るく爽やかで、サン=サーンスの魅力を見事に表現したこの演奏が復活され、

「サン=サーンスは、今一つ…」と考えられる方にも、是非ともお聴き頂きたいと思います。

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