最近聴いたCD

R.ワーグナー:『さまよえるオランダ人』序曲   

ジョゼッペ・シノポリ指揮  ニューヨーク・フィル


「嵐で荒れ狂う狂う大海原に立ち向かう、男のロマンを描いたような作品!」

初めて聴いた時から、そんなイメージを抱き続けている曲です。

特に、蒸し暑く、じめじめした鬱陶しい季節を迎えると、そんな気分を払拭するために、この曲が聴きたくなってきます。


半世紀以上前の小学校の二年生の時、同級生の女の子が、お父さんの海外赴任に伴って1か月の太平洋航路を経て、アメリカへと旅立っていきました。

彼女の最後の登校日、授業終了後にクラス全員が正門で見送ったのですが、

彼女の目に浮かんだ涙を見て、「自分もいつかは、船でアメリカへ!」と、切ない感傷を抱いたものでした。


いまでこそ、世界の主要都市間には航空網が張り巡らされ、

ネットで世界中の情報をリアルタイムに入手できますが、

当時の感覚で言えば、外国とは渡航に要する金銭的にも時間的にも夢のような世界であることは、子供心にも理解できていました!

「大人になったら、お金持ちになって、いつかは自分もアメリカに行きたい」そんなことを考えていたように思います。

初めてこの序曲を聴いた時、冒頭に書いた感慨とともに、その時感じたのであろう外国航路への憧れが、甘酸っぱい感傷を伴なって蘇ってきました。

そんな私的な思い入れは、今もこの曲を聴くと蘇ります。


ハイネの書いた伝説を素材としたこのオペラの粗筋は…

航海中に大時化に遭い、それをきっかけにして神を呪ったオランダ人の船長が、

罰として、死ぬことすら許されずに、大海原をさまよい続ける宿命を科せられます。

ただし、7年に一度だけ上陸を許され、その時に自分に永遠の貞節を誓う女性が現われれば、

かけられた呪縛が解かれて、救済を受けることができます。

そんな事情を知った乙女(ゼンタ)は、恋人を捨ててオランダ人を救おうと決意しますが、

ゼンタに恋人がいることを知ったオランダ人船長は、自ら救済されることを断念し、彼女のもとを去るために、再び果てしない航海へと出発!

同情が、いつしか真実の恋へと変わってしまったゼンタは、そのことを知って絶望のあまりに岩礁から海に身を投げ、

オランダ人の乗った船も、航海中に沈没。

死によって二人の愛が成就し、オランダ人船長は、科せられた宿命から救済されるという内容です。


荒れ狂う嵐の海の情景を背景に、呪われたオランダ人の動機と、慈愛溢れるゼンタの救済の動機が対となって、危機感をはらんだ劇的な迫力で曲は進行…。

途中、屈託のない水夫たちの合唱が加わることによって、いっそう劇性は高まっていきます。


フルトヴェングラー/VPOのLPでこの曲に馴染んだ私ですが、

最近はシノポリ/NYPのCDを取り出すことが多くなりました。

幼い日の想い出を懐かしく蘇らせてくれる、勇壮さと憧れに満ちた、情感溢れる演奏だと思えるからです…。

ホームページへ