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ミカエル・グリンカ:『ひばり』他歌曲集 

リーナ・ムクルチャン(アルト)  エフゲニー・タリスマン(ピアノ)


グリンカ(1804-1857)は「近代ロシア音楽の父」と呼ばれ、ロシア人作曲家としては、初めて国際的な評価を勝ち得た作曲家と言われています。

ロシア音楽と言えば、情緒纏綿とした濃密な旋律を思い浮かべがちですが、

そんな中でグリンカの歌曲は、楚々とした爽やかな愛らしさが感じられる作品が多く、

今日エントリーしたリーナ・ムクルチャンの歌うグリンカ歌曲集は、とりわけそういった趣の曲が集められた作品集と思えるのです。


彼の歌曲の中で最も知られているのは、歌曲集「ペテルブルグとの別れ」(全12曲)に収録されている第10曲『ひばり』でしょう。

恋に恋する初心な男が、未だ見ぬ恋人への想いを、空と大地の間で囀るひばりの歌に託した詩に、グリンカは珠玉のような美しい旋律を付けました。

ひばりの囀りを模したようなピアノ伴奏も、絶妙のもの!

詩の意味から推して、本来は男声のために書かれた曲なのでしょうが、

見知らぬ人への憧れと、自分を知ってほしいという仄かな希いが込められた詩の内容からは、

女声の歌唱でも、一向に差し障りは無かろうと思われます。


ゲーテの『ファウスト第1部』を出典としたシューベルトの歌曲『糸を紡ぐグレートヒェン』、

この詩にロシア語訳をつけて、恋する娘の心の動揺を表現した「マルガリータの歌」は、

ロシア的な哀愁が仄かに漂った、シューベルとの名作に劣らない曲として楽しめる逸品です!


ムクルチャンのアルトは、最初聴いた時には、仄暗さが鬱陶しく感じられて、辟易していたのですが、

何度か聴いているうちに、その素朴な歌唱に、次第に惹かれるようになってきました。

グリンカの歌曲集、湿度の高い今の季節に、一服の清涼剤としてお聴きになることをお薦めしたいディスクです。

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