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W.A.モーツァルト:弦楽四重奏曲第23番 K590  

ハーゲン弦楽四重奏団


1789年、モーツァルトはプロイセンの国王ヴィルヘルム2世より、6曲の弦楽四重奏曲を依頼されましたが、

この時期経済的窮乏に陥り、かつ病魔にも侵されていたために、思うように筆が進まず、

結局は3曲を完成しただけで、国王との約束を果たすことなく、鬼籍に入りました。

今日エントリーするK590は、そんな時期に書かれたモーツァルト最後の弦楽四重奏曲。

チェロの名手である国王を意識して作曲されたこともあって、

モーツァルトの室内楽には珍しく、チェロの響きが大きなウエイトを占めていること、

加えて死を意識せざるを得ない体調も災いしたのでしょう、

ヘ長調の調性を持ちながらも、モーツァルト特有の天真爛漫としたのびやかさとは一線を画した、救いを見出せない孤独な心境が伝わってくる作品と感じるのです。


今日聴いたディスクは、ハーゲン弦楽四重奏団によるもの。

こういった曲想は、もしかするとモーツァルトの本意ではなかったのかもしれませんが、

そのことはさて置いても、K590から自ずと滲み出るようなモーツァルトの孤独な心境が実直に表現された、名盤中の名盤だと思えるのです!

第1楽章は、それぞれの楽器が孤独な心境を独白するように歌い交わす内省的な音楽には、モーツァルトの心の痛みが感じられます。

第2楽章アンダンテは、至福の時を思わせる愛らしさに溢れた音楽ですが、寂寥とした雰囲気が漂います…。

第3楽章も、冒頭から鳥たちの囀りを思わせる愉しげな音楽で開始されますが、愉悦感が展開されることなく、寂しさが浮かび上がってきます。

第4楽章も、幸福感に満ちた主題によって開始されますが、

中間部のフーガ風の展開では、これまでのモーツァルトの曲に聴けた、自由奔放・天真爛漫さが抑制されており、

どこか痛々しさを感じざるを得ない音楽となっています。


モーツァルトらしさを求める向きには、物足りなさを感じざるを得ないのでしょうが、

一人の偉大なる天才音楽家の、ままにならない苦悩を反映した音楽と位置付けると、この曲の計り知れない深遠さが姿を表わすように思うのです。

ハーゲン弦楽四重奏団による、これは屈指の名演奏だと思います!

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