1735年には、第2巻としてイタリアとフランスの様式の差異を明確に描き分けた、『イタリア協奏曲』と『フランス風序曲』の2曲が出版されました。
この2曲は、それまでのクラヴィーアのための作品とは異なり、
管弦楽と独奏楽器のために書かれた作品を編曲したような体裁をとっていると言われています。
高音域がふんだんに使われ、テキストも入り組んでいるために、華麗で緊張感に溢れた印象の『イタリア…』に比べ、
低音域にシフトして、テクスチャーも単純な体裁をとった『フランス…』の響きの豊かさは、
バッハの他のクラヴィーア作品とは趣の異なる、独特の風格を有した作品と感じられます。
今日エントリーするディスクは、1991年アンドラーシユ・シフの演奏によるもの。
ピアノはベーゼンドルファーが使用されているそうですが、何とふくよかで柔らかい音色なのでしょうか!
この演奏を聴くたびに、美しい響きの中から立ち昇る、高貴で雅な音楽の世界を楽しんでいます。
緩―急―緩の伝統的形式を踏まえた、長大な第1曲「序曲」。
緩やかな部分の豊かな響きから醸される高貴さを湛えた厳かさ!
急な部分では、湧き上がる泉のように、感興が尽きることなく溢れ出てきます。
「序曲」に続く、「クーラント」「ガボット」「パスピエ」「サラバンド」「ブーレ」「ジーグ」「エコー」は、どれもが明確なリズムを有する舞曲。
中でも「ガボット」「パスピエ」「ブーレ」での第1、2舞曲との対比の鮮やかさ、
とりわけ、大気を揺るがすことなく厳かに舞われる、祈りのような「サラバンド」…。
定評のある演奏ですが、未聴の方には是非ともお薦めしたい名演だと思います!