グールドは、ロマン派のピアノ曲をレパートリーに持たないとされたピアニストでしたが、
その理由について60年代初頭のインタヴューでは、「ロマン派の作品は、楽曲の構成が十分でないため」と答えています。
そういった面での唯一の例外がR.シュトラウスの諸作品と考える彼は、
彼の遺した数少ないピアノのための作品だけでは満足できなかったのか、
自らの楽しみとして、交響詩やオペラなどをピアノで弾いていたと言われています。
この曲、以前は日本でもお馴染みの名指揮者ヴォルフガング・サヴァリッシュのロマン派色の濃いピアノ演奏で聴き、なかなかの佳曲だと感じていたのですが、
グールドの演奏で聴くと、予想通りとはいえ、一皮も二皮も剥けた、斬新な音楽として蘇ります。
第1楽章冒頭、運命の扉を叩くように、強い問いかけを思わせる表現にはビックリしました。
問いかけが終了し、繰り広げられる楽曲の多彩さからは、限りなく夢が拡がっていくような…。
思いのたけを込めて歌われるグールドのピアノを聴いていると、至福の時が過ぎ去っていきます…。
第2楽章も、美しい想い出を回想するかのように、思いのたけを込めて歌われますが、
ロマンツェ風の中間部では、一場の夢を見るかのような、幻想味に富んだひとときが訪れます。
妖精が飛び回るように開始される瑞々しさに溢れた第3楽章は、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』のような世界。
トリオ部の、心地良いまどろみの世界に誘われるような、美しさや楽しさの表現!
第4楽章での圧巻は、こみ上げる懐かしさが最高潮に達し、静かに夢の中へとスリップしていくような、鮮やかな場面転換を感じさせる部分。
グールドの、神憑り的な閃きが感じられる演奏です!
つい最近まではバッハ演奏に違和感を覚え、傾聴することもなかったグールドでしたが、
このようなR.シュトラウスの演奏を聴いてしまうと、知られざるロマン派のピアノ曲を残して欲しかったと思いますし、
50歳で亡くなってしまったことが、かえすがえすも残念でなりません。