第3楽章の変奏曲の主題に、J.ワイグルの歌劇『船乗り仲間の恋人』中の三重唱「私の約束の先に」の旋律が用いられているからです。
1797年10月にウィーンで初演されたこの歌劇の中の三重唱は、瞬く間に街のあちこちで歌われるほどに親しまれていたために、このようなニックネームが付けられたとか。
そんなニックネームに相応しく、全体的に流れの心地良い、明るい気分の曲想です…。
力強くも優しい表情を込めてユニゾンで開始される第1楽章は、
颯爽とした軽快な流れの中で、時折歌い交わすヴァイオリンとチェロの優しさが印象的!
展開部での表情の変化の豊かさは、いかにもベートーヴェンらしいと感じられます。
第2楽章は、親しみ易く思いやりに満ちたチェロが奏でる旋律で開始され、それがヴァイオリンに惹き継がれていくところは、希望に満ちた青年ベートーヴェンを髣髴します。
後半部での、3つの楽器が情感を込めて歌い交わすさまは、さながら青空にたなびく雲のように自由で、崇高さすら感じられます。
先述した第3楽章変奏曲の主題は、ウキウキとした楽しげなもの。
それに続く9つの変奏とコーダは、変奏の名手ベートーヴェンならではの、多彩な音楽が楽しめます。
なかでも、第2変奏でのヴァイオリンとチェロの会話や、
第8変奏でのピアノのスタカートに乗って、ヴァイオリンやチェロが奏でる朗々とした旋律がとりわけ印象的!
今日ントリーするのは、1983年に録音されたスーク・トリオの演奏。
それぞれの楽器が穏やかに語り合う趣の、幸福感に満ちたベートーヴェン演奏として、しばしば取り出して愛聴している名盤です。