その翌年に「エラール」商会は、同社のダブル・アクション・ハープのPRのためにラヴェルに依頼し、
それに応えて書かれたのが、弦楽四重奏とフルート・クラリネット・ハープのための作品『序奏とアレグロ』でした。
こちらの作品は、クロマティック・ハープの弱点とされるグリッサンドを多用していますが、
作品の優劣はさて置いて、
曲を聴いた印象では、表現の多様性という点で、現代のハープの原型となった「エラール」商会のハープに軍配が上がるように思えます。
クロマティック・ハープの方は、現在ではすっかり忘れ去られてしまいましたが、ドビュッシーの作品は今も高い評価を得ています。
友人に誘われたヨット旅行に出かけ直前に依頼を受け、何日も徹夜をしながら僅か1週間ほどで書き上げられたというこの作品ですが、
過当な販売競争のお蔭で、私達はかくも美しい室内楽の名曲を聴く幸運に恵まれたわけです。
早朝、深い森に眠る湖から立ち昇る早霧に包まれた大気の揺らぎや、
湧きいずる泉の清冽さ、
こずえを渡る風の音などから、
限りなくメルヘンチックなファンタジーの世界へと想像が拡がっていく趣の音楽!
曲名こそ『序奏とアレグロ』というそっけないものですが、
内容的には、バレー音楽『ダフニスとクロエ』第3幕の「夜明け」を髣髴させるような壮大な拡がりをもつ描写音楽であり、
同じく『マ・メール・ロア』を思わせる、メルヘンとファンタジーに富んだ作品だと思います。
演奏は、アンサンブル・ウィーン=ベルリンという、ウィーン・フィルやベルリン・フィルの名手たちによるもの。
豊潤な音色の美しさに、至福のひとときが楽しめる素晴らしい演奏です。