ピアノ曲『草かげの小径』は、
愛娘の死後の失意のどん底から立ち直る過程で、
彼女を偲びながら私的な感情を吐露しつつ、
少しづつ書き足されていった作品。
第1集が完成・出版されたのは1908年のことでした。
各曲には、愛する娘を失った悲しみが込められているのは当然ですが、
時の経過とともに悲しみは昇華され、
彼女と過ごした懐かしい日々が、故郷モラヴィアの自然や民謡とともに蘇る、
そんなノスタルジーに溢れた名曲だと思います。
尚第2集は、第1集から外された小品と、
1911年に作られた未発表作品を組み合わせた5曲から成り、
作曲家の死後14年が経過した、1942年に発表されました。
今日エントリーする第1集の10曲には、作曲者自身によって、順に以下のような標題が付けられています。
1:私達の夕べ
2:風に散った木の葉
3:一緒においで
4:フリーデクの聖母マリア
5:彼らは燕のように喋りまくった
6:言葉もなく
7:おやすみなさい
8:こんなにひどく怯えて
9:涙ながらに
10:フクロウは飛び去らなかった
それぞれに、成長していく愛娘と過ごした日々への万感の思いが、美しく綴られた作品と感じます。
聴き手の人生体験に照らし合わせて、様々な感慨を呼び覚ます作品だろうと思うのですが、
その中から印象的だった曲を、いくつか挙げると…。
懐かしい人との再会へのときめきを思わせる、第1曲「私達の夕べ」…
わらべ歌に秘められた物悲しさが懐かしさを呼び覚ます、第2曲「風に散った木の葉」…
いつまでも語らい続けたい恋人同士が、名残惜しげに別れを告げる情景を描いた、第7曲「おやすみなさい」…
愛を告白された喜びと戸惑いの感情が表出された、第8曲「こんなにひどく怯えて」…等々
ヤナーチェクをピアノと作曲の師と仰ぐルドルフ・フィルクスニーの慈しみに満ちた演奏からは、
亡き子を偲び、喜びや悲しみの感情をいつまでもを共有する作曲家の心情が痛いほどに伝わってきます。
チェコ国民学派のピアノ音楽を代表する名曲であり、名演だと思います!