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ベートーヴェン:
ディアベリの主題による変奏曲 op.120 

ウィルヘルム・バックハウス(ピアノ)


ベートーヴェン晩年の1823年に作曲された傑作!

作曲家であり出版業者でもあったディアベリ(1781-1858)は、

自作のワルツをオーストリア在住の作曲家やピアニストに送って、これを主題にした変奏曲を1曲づつ依頼、

「祖国芸術家連盟」の名称で、大規模なピアノの為の変奏曲を出版する企画を立てました。

要請に応じて寄せられたほぼ50曲の変奏曲の中には、シューベルトのD718や、リストの処女作も含まれていたそうですが、

それらが組み合わせられ長大な変奏曲が完成し、コーダはピアノの教則本でお馴染みのツェルニーが担当したとか。

ベートーヴェンにも勿論声はかけられましたが、彼はこの企画には首を縦に振らなかったのは、彼の高いプライド故でしょうか?

しかしながら、その後同じ主題をもとに、33もの変奏をもつ長大な作品を完成、楽譜はディアベリ社から出版されました。


全曲を演奏するには、休憩なしでほぼ50分を要するこの大作。

聴衆の気持を弛緩させることなく弾き通すには、

曲の全体像を完璧に掌握するための努力と、

それを咀嚼した上で明晰に表現し得る、並はずれた能力が要求されると思います。

今日エントリーするバックハウスの演奏(1955年録音)を聴くと、

前述した要素に加えて、

各変奏曲は、ベートーヴェンが求めた自在な気持が感じられるかの如く、たった今誕生したかのように即興性な瑞々しさに溢れており、

そのために聴き進むにつれてぐいぐいと曲に惹き込まれるという点で、

これまでに聴いたどの演奏よりも、際立って優れていると感じるのです。


軽く楽しげなディアベリの書いたワルツの主題で開始されるこの曲ですが、

曲想は実にさまざまに変化していき、

素人愛好家の私には、各変奏曲が主題の原型とどう関係しているのかなど、とても理解はできません。

それでも、各変奏ごとの曲想の変化を聴いていると、いかに音楽的に高度な次元のものなのか、理解できるような気がします。

一例を挙げると、

後半のロマン派の音楽を髣髴とさせる美しい第29変奏が、

一層感動を深めて、第31変奏に至っては“ロマンチシズムの極致”とも思える、陶酔的なまでの憧れへと昇華するさま…

そして最後の第33変奏では、一場の夢から覚めたように現実へと回帰していく…。


この曲は、ベートーヴェンの不滅の恋人といわれるアントーニア・ブレンターノに献呈されました。

その理由が理解できるような、神々しくまでに内容の充実した超弩級の名演奏だと思います。

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