最近聴いたCD

M.ラヴェル:左手の為のピアノ協奏曲  

ミッシェル・ベロフ(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮  ロンドン交響楽団  


第1次大戦で右手を失ったピアニストのヴィトゲンシュタインの依頼を受けて、1930年に完成された作品。

ところが、翌年の初演時には、ヴィトゲンシュタインは余りの難技巧の為に楽譜通りには弾けず、独自に手を加えた上に、

技巧に拘り過ぎて、内容に乏しい旨の批判をしたと言われています。


自筆譜の表紙には、ラヴェル自身によって「混じり合ったミューズたち」と記されているように、

様々な様式の異なる音楽が登場する、ヴァラィエティに富んだ作品!

確かに技巧的には大変に困難な曲ではあるのでしょうが、

この曲を聴き馴染んだ者にとっては、ユニークで且つ内容に富んだ作品であり、

古今のピアノ協奏曲の中でも、屈指の名曲と言っても異論はなかろうと思います。


単一楽章の作品ですが、内容的には3部から構成されるこの作品。

今日エントリーするのは、収録時には時には右手を故障していたと言われ、一時期演奏から遠ざかっていたと言われるミシェル・ベロフのピアノと、

アバド/ロンドン響による、丁々発止としたインスピレーション溢れる掛け合いが素晴らしい演奏。


コントラバスとコントラファゴットの超低音によって開始される、暗闇に蠢くような抒情を湛えた印象的な冒頭部。

続くピアノによるカデンツォは、エキゾティックな雰囲気を湛えつつ、
やがてオーケストラの伴奏を得て、壮大な盛り上がりをみせます。

それに続く美しくも悲しいまでに透明なピアノの旋律は、イルミネーションを映して輝く雨の舗道を見るような趣が…。

きらびやかな美しさに溢れた情景を思い浮かべつつ、情感は一層高まります!


中間部に入ると、活き活きとしたお洒落なジャズっぽい音楽が…。

とは言っても、ジャズって大阪の「ブルー・ノート」で2〜3度聴いたくらいの知識しかありませんが、

アバドとベロフの演奏を聴くと、自ずとスウイングような気分になります…。

木管楽器とピアノの瑞々しいやり取りや、

ミリタリー・マーチ風のリズムに乗って奏される旋律に、不思議なけだるさを感じつつ、

いつの間にか身体全体でリズムをとっている自分に気付きます!


後半部のピアノソロは、「本当に片手だけで弾いてるの?」と思うほどに、

多彩でニュアンスの豊かな音が、空間にたなびき、

エクスタシーにひたるような悦びが…。

クラシックを聴くのは鬱陶しいとおっしゃる方にも、是非お薦めしたい作品です!

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