ところが、翌年の初演時には、ヴィトゲンシュタインは余りの難技巧の為に楽譜通りには弾けず、独自に手を加えた上に、
技巧に拘り過ぎて、内容に乏しい旨の批判をしたと言われています。
自筆譜の表紙には、ラヴェル自身によって「混じり合ったミューズたち」と記されているように、
様々な様式の異なる音楽が登場する、ヴァラィエティに富んだ作品!
確かに技巧的には大変に困難な曲ではあるのでしょうが、
この曲を聴き馴染んだ者にとっては、ユニークで且つ内容に富んだ作品であり、
古今のピアノ協奏曲の中でも、屈指の名曲と言っても異論はなかろうと思います。
単一楽章の作品ですが、内容的には3部から構成されるこの作品。
今日エントリーするのは、収録時には時には右手を故障していたと言われ、一時期演奏から遠ざかっていたと言われるミシェル・ベロフのピアノと、
アバド/ロンドン響による、丁々発止としたインスピレーション溢れる掛け合いが素晴らしい演奏。
コントラバスとコントラファゴットの超低音によって開始される、暗闇に蠢くような抒情を湛えた印象的な冒頭部。
続くピアノによるカデンツォは、エキゾティックな雰囲気を湛えつつ、
やがてオーケストラの伴奏を得て、壮大な盛り上がりをみせます。
それに続く美しくも悲しいまでに透明なピアノの旋律は、イルミネーションを映して輝く雨の舗道を見るような趣が…。
きらびやかな美しさに溢れた情景を思い浮かべつつ、情感は一層高まります!
中間部に入ると、活き活きとしたお洒落なジャズっぽい音楽が…。
とは言っても、ジャズって大阪の「ブルー・ノート」で2〜3度聴いたくらいの知識しかありませんが、
アバドとベロフの演奏を聴くと、自ずとスウイングような気分になります…。
木管楽器とピアノの瑞々しいやり取りや、
ミリタリー・マーチ風のリズムに乗って奏される旋律に、不思議なけだるさを感じつつ、
いつの間にか身体全体でリズムをとっている自分に気付きます!
後半部のピアノソロは、「本当に片手だけで弾いてるの?」と思うほどに、
多彩でニュアンスの豊かな音が、空間にたなびき、
エクスタシーにひたるような悦びが…。
クラシックを聴くのは鬱陶しいとおっしゃる方にも、是非お薦めしたい作品です!