それともいつまでも寒さが厳しいせいなのでしょうか、
或いは頻繁に起こる余震の報道や体感する揺れに神経が過敏になって、周りを眺める余裕がなくなっているせいなのでしょうか。
いずれにしても、今年の春は鳥の姿を見ることも、鳴声を聴くことも少なく、例年のように季節を感じることができません。
そんな環境が、(将来にわたって根付くか否かは別として)従来の価値観を変えてしまっているのでしょう、
普段愛聴している音楽が、時にうんざりするほど空疎に思えてしまうことがあるために、
いつもとは異なった刺戟を求めて、滅多に聴くことのない曲を、CDプレーヤーのトレーに載せることが多くなりました。
管楽合奏の曲と言えば、ベートーヴェンやシューベルトのそれ以外は殆ど聴かない私が、
今日は、イベール、トマジ、ミヨーなどフランス近代の作曲家による、管楽器の為の室内楽作品を集めた、“PRINTEMPS(春)”というタイトルのCDを聴いています(BIS CD-536)。
その中から、シャルル・ケクラン(1867-1951)の木管七重奏曲をエントリーします。
作品番号226にも及ぶ多くの作品を残した作曲家ですが、
私がこれまで知っていたのは『ジャングル・ブック』という管弦楽作品のみでした。
フルート・オーボエ・クラリネット・ホルン・バスーン・アルトサクソフォン・コールアングレの為に書かれたこの作品は、
【第1曲:挽歌】
クラリネットのソロがしみじみと歌うこの曲は、人の自然への回帰を思わせるもの。
学生時代、パールバックの小説『大地』より、「人は自然より生まれて、自然へと帰る」という言葉に感動したことを想い出します。
【第2曲:田園曲】
野で焚かれる煙がまっすぐに立ち昇るような、風もない平和で穏やかな農村風景が髣髴される、懐かしさに溢れた佳曲です。
【第3曲:間奏曲】
各楽器が楽しげに呼び交わすさまは、豊穣の森の鳥たちの鳴声を思わせる、楽しげな音楽です。
【第4曲:フーガ】
楽器を変えて奏でられるフーガは、鳥たちのプロポーズの囀りでしょうか!やがて静まりつつ…
【第5曲:セレナード】
一日の終わり、夕餉の支度をする家々の煙突から立ち昇る煙を見るような、平和な情景が目に浮かぶような音楽です。平凡な日々への感謝!
【第6曲:フーガ】
人々の、喜びに溢れた素朴な踊りが…。
多くの方々の思いと同様に、私自身も63年の生涯を通じて、日々恙無く暮らせることのありがたさをこれほど感じたことはありません。
そんなことを実感させてくれる、けれんみの一切感じられない、素朴な佳曲だと思いました。