フォーレのチェロ作品と言えば、『エレジー(op.28)』『シチリアーノ(op.78)』のように、柔らかく上品で、洗練されたものが有名ですが、
この第1番ソナタは、50歳を過ぎた頃から患っていたと言われる聴覚障害に加えて、戦時中という時代を反映しているのでしょう、
一聴すると、そんな作風からは遠ざかった、地味で難渋な印象を受ける作品ではあるのですが…。
チェロのフレデリック・ロデオンが1952年、
ピアノのジャン・フィリップ・コラールは1948年の生まれですから、
このディスクが録音された1975〜78年にかけては20歳代の若者!
フォーレ晩年の作品から、実に瑞々しく、香り立つような抒情を引き出していると思えるのです。
第1楽章は、ぎこちない不安定さに支配されて開始されますが、
僅かな瞬間に漏れ聴かれる、フォーレ特有の滴るような美しい旋律には、
束の間の安らぎが訪れます。
ピアノの奏でる雨だれのような響きの中、チェロが孤独な心境を語る第2楽章冒頭部は、
至福の美しい時が流れていきます。
老境に達したフォーレの心に浮かぶ若かりし日々の懐かしい思いは、
曲の進行とともに強まっていきます…。
懐かしい感慨が滲み出た、幸福感に満ちた演奏!
第3楽章の、むせかえるように匂い立つ花々の香りを髣髴させる音楽には、
若き日のフォーレが慣れ親しんだ、華やかな社交界へのオマージュが感じられるのです…。
第3楽章での味わい深い趣には欠けるように思えますが、
第1、2楽章の瑞々しさは秀逸と感じ、このディスクをエントリーしました。