セミラーミスとは、戯曲に登場する紀元前9世紀のアッシリア帝国の女王の名前ですが、
オペラではセミラーミデと名を変え、その悲劇を描いた内容に仕立てられています。
とはいっても序曲だけを聴くと、
序奏部冒頭と主題に入る直前のアレグロ・ヴィヴァーチェの緊迫感に富んだ音楽が、僅かに悲劇を予兆させるくらいで、
あとはロッシーニらしい力強く軽快なノリのよい音楽が展開されています…。
彼の序曲は、どれを聴いても(多分)似たようなパターンで、聴衆のオペラへの期待感を掻き立てていきますが、
中でもこの曲はそれが最高度に発揮されているように感じられて、
彼の序曲の中では、一押しのものです。
ティンパニーのトレモロに乗って弦が力強く刻む緊迫感溢れる音楽に続いて、ホルンの四重奏は、騎士たちが女王セミラーミデへの忠誠を誓う音楽。
優しい音楽なのですがどこか頼りなげで、この時点から喜劇的な側面を感じるのです…。
第1主題は、心が浮き立つような音楽。
羽のように軽やかな弦の刻みは、楽しい予感にときめく胸の高まりを、
クラリネットやピッコロの木管群は、その周りを飛び回りながら囀る鳥たちのようで、
愉悦感に溢れた、素晴らしい音楽です。
そして、テンポと音量を、時間をかけて息長く盛り上げていく、お決まりのロッシーニ・クレッシェンド!
ここでも、木管群の彩りが愉しげな気分を、より一層盛り上げていきます。
今日エントリーするのは、リッカルド・シャィー指揮するミラノ・スカラ座フィルの演奏です。
収録ホール(Chiesa della Pace,Milan)の音響の問題か、残響に乏しいデッドな録音に感じられて、
とりわけクレッシェンド時の量感の乏しさに不満は残るのですが、
その分思いがけない木管楽器の微細な表情に聴覚(みみ)を奪われて、面白く楽しむことができました。
沈んだ気持が浮き立たせてくれるような、素晴らしい演奏だと思います!