今回の大震災で被害のなかった私どもでさえも、未だにガタッという音がしただけで、「又か…」と肝を冷やす思いですから、
被災された皆様のご心労はいかばかりかと、心が痛みます。
直接被害に遭わなかった日本人の多くもまた、精神的に少なからぬショックを受けている様子です。
3月11日以降、軽井沢近郊で見る車の台数が激減したまま、現在も回復する兆しはありませんし、
アウトレット・モールや旧軽銀座にも、人影はほとんど見当たりません。
私も大震災以降、季節を全く感じられないままに日々を過ごしてきましたが、
今日庭の片隅に咲くタンポポの黄色い花を見て、今が春であることを遅まきながら感じた次第です…。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番『春』…。
春をテーマに書かれた作品ではありませんが、
明るく幸福感に満ちた曲想から、後年になってこのような愛称で親しまれています。
演奏は昔から定番とされてきた、グリューミオのヴァイオリンと、ハスキルのピアノによるもの(1956年録音)。
第1楽章第1主題の瑞々しく爽やかさに奏される旋律に、たちまち春の世界に誘われます!
陽光を浴びて光り輝くようなハスキルのピアノと、
鳥の囀りのように明るいグリューミオのヴァイオリンが親しげに語りあうさまからは、
自ずと春の息吹が感じられます。
第2楽章は、胸打ち震えるような心情を吐露するような、切なく愛らしい音楽です。
ヴァイオリンとピアノの密やかな対話の美しさは、秀逸です。
第3楽章は、ウキウキとした愉しさに、聴き手の心までが明るくなってきます。
そして第4楽章では、親しみを感じることに無上の喜びを覚えるような、
若き日のベートーヴェンの心のときめきが感じられます。
被災された皆様には、心安らかに生活できる日々が一日でも早く訪れますようにと、心から願わずにはおれません。