日本では、ヤーノシュ・シュタルケルが1950年に録音した、「松ヤニの飛び散るのが見える」とまで評された名録音・名演奏によって、存在が知られるようになりました。
私も若い頃にこのLPを聴いたことがありますが、
残念ながら当時の感性ではこの曲の良さは理解できませんでしたし、
当時の我家の再生装置では、「松ヤニが飛び散る…」生々しさを再現することもできませんでした。
しかし、30数年が経過して聴いたヨーヨー・マの演奏は、干天の慈雨の如くに、音楽が心に沁み入ります。
第1楽章は、ロマの歌を思わせる哀愁漂う民族的なメロディで開始されますが、
やがて怖れや怒りを伴ないながら、慟哭や祈りを髣髴させる音楽へと発展します!
現世とは思えない呪術的な雰囲気さえ漂う、不思議な感慨を抱かせる音楽です。
第2楽章は、広大な草原の彼方の地平線に沈む夕陽を見ながら、過ぎ去りし想いに耽るような音楽。
寂寥感漂う中に、民族楽器のツェンバロンやバグパイプのような音色が聴き取れますが、
それは恰も古への呼びかけのような趣が感じられます。
第3楽章は、ハンガリーの民族舞踊を思わせる、躍動的でバーバリズムに溢れた音楽。
楽章途中では、地底から湧き上がるつむじ風のような、物凄いエネルギーが噴出します…。
悲しみの中にも、マジャール民族の不屈のエネルギーがひしひしと伝わってくる、大変に感動的な音楽です!
が、単に一民族の誇りにとどまらず、
打ちひしがれた人々の心に寄り添い、力づけることができる、
そんな普遍性を有した素晴らしい芸術だと感じました。