最近聴いたCD

W.A.モーツァルト:
モテット『アヴェ・ヴェルム・コルプス』K.618  

ミシェル・コルボ指揮  ローザンヌ声楽・器楽アンサンブル


ウィーンで作曲やコンサートに多忙な生活を送っていたモーツァルトは、

出産を控え体調が不良だった妻コンスタンツェを、大事を取って温泉地バーデンで療養させることで、母子ともに健康な出産を迎えることができました。

その際、誠心誠意をもって尽くしてくれた合唱指揮者シュトルヘの感謝の気持ち込めて、

聖体の秘跡に対する深い信仰を詠った中世の詩『アヴェ・ヴァルム・コルプス(聖体讃歌)』をテキストとして、作曲・贈呈しました。


  めでたし、処女マリアより生まれた給いし御身
  人類のため、まことに苦しみを受け、十字架上に犠牲になり給い
  御脇腹を刺し貫かれ、水と血を流し給えり
  臨終のもだえに先立ちて、我らの糧となり給え

この詩をテキストにして、多くの作曲家が『アヴェ・ヴェルム・コルプス』を作曲しています…。


モーツァルトと妻コンスタンツェの間には、この時までに5人の子供が誕生しましたが、

そのうちの4人を、生後半年以内に亡くすという悲しみを体験しました。

そんなモーツァルトが、

死をもって全てが終わると考えるのは、子供たちが余りに不憫であり、

魂の不滅を(信じたいと)願い続けたであろうことは理解できますし、

それが早過ぎた晩年に、数々の無垢で清らかな作品たちを生み出す源となったと考えることも、

あながち的外れではないと思います。


この曲は、聖体讃歌をテキストとして用いてはいますが、

しかしながら単に宗教音楽というジャンルを超えて、

愛する人を亡くした全ての人が抱くであろう、魂の不滅を信じたいと願う気持がこめられた作品、

そのように言えるのではないでしょうか。


混声4部合唱と弦楽・オルガンのために書かれた、僅か46小節の小さな規模の作品。

ミシェル・コルボが1989年に録音したディスクは、

静謐さに包まれながら悲しみを共有しつつ、

たとえひと時でも心に救いをもたらしてくれる、充実した演奏だと思います。

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