前年に書かれたop.90とop.142の即興曲集(各4曲)などとともに、
彼の詩情豊かなロマン的な資質が存分に活かされた小品集ですが、
内容的には、即興曲集よりも晩年の孤独な心境が、より痛切に表出されています…。
その後にベートーヴェンを意識して書かれたという3曲のピアノソナタ(D,958〜960)の出版に遅れること30年、
ブラームスによってようやくその価値が見出され、死後40年経った1868年に、『3つの小品(3 Klavierstücke)』と名付けられ出版されました。
今から四半世紀前、妻がアシュケナージのコンサートで「大感激した!」という話を聞いて、初めて知った曲です。
残念ながら、アシュケナージはこの曲を録音していなかったようですが、
初めてブレンデル盤で聴いた時には、病に侵され死を意識していたというシューベルトが、彼岸への憧れを歌った儚くも美しい音楽だと感じ、
ソナタ以上に好きな曲集として、夢中になったものでした。
今日エントリーするディスクは、ポリーニの演奏によるものです。
第1曲は、安らぎを求めようとする焦燥感が滲み出たような、大変に印象的な音楽で開始されます。
2か所の緩除部は、落ち着いた気分に支配されてはいますが、心からの安らぎには至りません。
気まぐれな快楽を感じさせる主部と、天国に響く鐘を思わせる静謐さに包まれた中間部との対比が印象的な第3曲…。
ですが、とりわけ感動的なのは第2曲ではないでしょうか。
第1、3曲とは異なり、傷ついた心を慰めるように、抒情的でゆったりとした音楽で開始されますが、
細かい音符が刻まれる暗く不安げな第1のエピソードが、心をかき乱します。
いったん主部に戻った後、
彼岸への憧れを切々と訴えるような第2のエピソードが奏でる、神品とも思える天上的な儚い美しさは、
現世の悲しみを共有してくれるという意味での、究極の癒しの音楽と感じます。
この曲集の白眉であるばかりでなく、
シューベルトが書いたすべての作品中、最も美しい瞬間であるであると、私は信じています。
音楽を愛する全ての人に聴いて欲しいと思う、超お薦めの素晴らしい演奏!