しかしパリでは、華やかな社交界のしたたかな貴族たちに翻弄されて、地位・名誉・富のいずれをも得ることができず、二人は安宿住まいを強いられました。
それが原因か、1778年の7月に母親は病をこじらせて客死。
22歳のモーツァルトは、初めての肉親の死を、異国の地で体験することになりました。
この時期に書かれた2曲の短調のソナタ、
ヴァイオリンソナタ・ホ短調(K.304)とピアノソナタ・イ短調(K.310)は、
そんな悲運な境遇の中で、母の死を悼んだ作品ではないかと言われています。
今日エントリーするディスクは、デュメィ(vn)とピリス(p)による演奏です。
第1楽章冒頭は、すすり泣くようなヴァイオリンの旋律と、それに寄り添うように奏でられるピアノによって、印象的に開始されます。
まるで、異国の地(パリ)で、肩を寄せ合って暮らすモーツァルト母子のように、
二つの楽器が気持を支え合うように歌われることによって、時に悲しみが癒される瞬間もありますが、解決するには至りません…。
第2楽章は、ピアノが奏でる寂寥とした孤独感を湛えた旋律によって開始され、
そんな気持ちを分かち合うかのように、ヴァイオリンが同じ旋律を繰り返します…。
この部分のデュメィとピリスの演奏は絶品で、聴くたびに目頭が熱くなってきます。
中間部の長調に転調される部分の、ふと途切れる緊張感…。
この部分、名盤と評されるグリューミオ/ハスキルの演奏では、孤独の中で救済されたような安堵感に、胸を締め付けられるような思いが…。、
こちらも捨てがたい瞬間が味わえる演奏です!
いずれにしても、モーツァルトが書いた作品の中でも、最高峰に位置する素晴らしいものだと思います。