1821年に初演された当時は、ドイツ国内においてもイタリア歌劇全盛の時代でしたが、
ドイツの民話に題材を得て、鬱蒼とした深い森を舞台に、素朴なゲルマン民族の魂を歌いあげたこの歌劇は、
多くのドイツ国民から熱狂的に迎えられて、国民的な音楽として広く親しまれたと言われています。
古典派音楽から、後のメンデルスゾーンやシューマンへと続くドイツロマン派の幕開けとなった重要な音楽!
中学校の卒業を間近にひかえたちょうど今頃の時期に、
音楽の先生からそのように教えられ、聴かせてもらったのが、『魔弾の射手』序曲でした。
曲の冒頭部で4本のホルンが奏でる旋律は、「秋の夜半」という曲名で音楽の教科書に載っており、
授業で歌ったこともありましたが、何の感慨も抱けなかった曲。
そんな旋律をあらためてレコードで聴くと、ドイツの鬱蒼とした森林が思い浮かんできて、
「いつかは本場ドイツで、この曲を聴いてみたい」と思うほどに、感動したものでした。
この時の演奏が、フルトヴェングラー指揮するウィーン・フィルによるもの。
爾来47年が経過しましたが、未だにこれ以外の演奏では、途中で緊張感が途切れてしまうほどに、大変に思い入れの強い曲の一つです。
フルトヴェングラーの演奏には、他とは比肩し得ないと感じる、感動的な部分が2か所あります。
一つは、曲の前半部で第2主題(アガーテのアリア)が登場するところ…。
霧が晴れて、突然眼の前に大パノラマが広がるように、
予想すらできなかった神々しいまでの美しさを湛えた旋律が、登場します!
もう一つは、再現部が鎮まって全休止後…。
フォルテシモで和音が高らかに鳴り響いた後、
第2主題が僅かにアッチェレランドしながらクレッシェンドしつつ、一気にコーダへとなだれ込む圧倒的な力感は、
フルトヴェングラーをもってしても、一期一会の演奏と思えるほどに感動的なもの。
1954年に同じコンビでライブ録音された全曲盤でも耳にし得ない、素晴らしい演奏です!
そんな思い入れを払拭して、違ったアプローチの演奏を楽しみたいと思ってはいるのですが…。
この呪縛からは、容易には抜けられそうもありません。