最近聴いたCD

F.リスト:パガニーニによる大練習曲 

ピアノ:ニキタ・マガロフ


1831年、20歳になったばかりのリストは、パリでパガニーニの演奏を初めて聴き、自らはピアノ界でパガニーニのような存在になろうと決心したと伝えられています。

1838年、『無伴奏ヴァイオリンのための24のカプリース』から5曲と、ヴァイオリン協奏曲第2番終楽章から抜粋してピアノ独奏用に編曲、

『パガニーニによる超絶技巧練習曲』として出版しました。


しかしこの編曲は、20世紀を代表する大ピアニストのホロヴィッツをして、「演奏不可能」とまで言わしめたほどの、至難な技巧を要するもの。

当時でも、この曲を弾き切れる技量を有したピアニストは、リスト本人以外にいなかったのでしょう。

そのために1951年には改訂を加えて、新たに『パガニーニによる大練習曲』として出版されました。

中でも第3曲『ラ・カンパネッラ(鐘)』は、リストの全作品中最も有名なばかりでなく、

特に日本では、クラシック音楽の中でもとりわけ高い人気を誇っています。


今日エントリーするディスクは、世界で最初にショパンのピアノ曲全曲を録音したという、ニキタ・マガロフによる演奏(1961年)です。

技巧をひけらかすような技法とは一線を画した、優雅で洗練された折り目正しい演奏は、

「大練習曲」と名付けられたこの曲のもつ、美しくロマンティックな側面を浮き彫りにしており、

初々しい感動を呼び覚ましてくれます。


「トレモロ」と名付けられた第1番は、原曲はカプリースの第4、5番…
闇の中に希望が仄見え始め、燃え上がるような情熱へと高揚していく、ロマンティックな演奏です。

第2番「オクターヴ」は、カプリースの第17番から…
手を伸ばせば今にも届きそうなのに、なかなか掴めない、そんな戯れを思わせる愉しげな演奏です。

第3番の「ラ・カンパネッラ」だけは、ヴァイオリン協奏曲第2番の終楽章が原曲。
特に前半部は、「鐘」というよりも、囀り交わす小鳥たちの声を聴くように、初々しい感動を覚えます。

第4曲「アルペッジョ」は、カプリースの第1番より…
光輝く穏やかな流れのなか、ふと立ち止まる表情の愛らしいこと!

第5番は「狩」は、カプリースの第9番より採られたもの。
角笛がこだまする、のどかで和やかな情景が髣髴されます。

最後の第6番は、カプリースの24番から…。
この主題は、ブラームス『パガニーニの主題による変奏曲』や、
ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲』にも引用されており、
リストも、めくるめくような11の変奏曲として扱っています。
マガロフの演奏からは、微妙な色彩の変化が美しく感じられます。


リストの作品では、ピアニストの技巧に感嘆しながら、胸のすくようパフォーマンスに拍手喝采することも良くありますし、

この曲などは、その最たるものでしょう…。

しかし、マガロフのように、技巧をひけらかすことなく、奥ゆかしく弾かれたこの練習曲からは、

全6曲の持つ瑞々しい抒情性を、存分に堪能することができました。

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