それまでの神話や英雄を扱った誇張された台本ではなく、
日常生活上の現実的な出来事を扱った台本が選ばれました。
その代表作の一つとされるのが、今日エントリーするレオンカヴァッロ(1858-1919)の『道化師』です。
少々本筋を離れた話になりますが…、
『クラシック悪魔の辞典』(鈴木淳史著:洋泉社)によると、
【ヴェリズモ】
オペラ化された、イタリア版「週刊実話」
「週刊実話」という雑誌は、今現在も販売されているのでしょうか。
その内容は、実際に巷で起きた惚れた腫れたの末の刃傷沙汰を、面白おかしく誇張した記事を売り物にしており、
筆者はこの雑誌を、顔見知りのいない駅の売店で買うことすら憚られると認知していましたので、
万が一、出張中の列車の座席や網棚にこれを発見した場合には、
人目を憚りながら斜め読みした後、網棚に放り上げ、間違っても鞄に入れて持ち帰らないように、留意したものでした。
閑話休題。オペラの粗筋ですが、
旅回りの道化一座の座長カニオは、妻であり女優でもあるネッダの浮気現場に出くわしてしまいます。
しかし、その相手が誰だかは確認できず、カニオは妻を問い詰めますが、
愛する男にに危害が及ぶのを恐れた彼女は、決して彼の名を明かしませんでした。
その夜の公演で、昼間の浮気現場の状況と余りにも瓜二つの場面が演じられたために、
心が錯綜して現実との見境がつかなったカニオは、激怒のあまりに舞台上で役柄を演じる妻を刺殺。
それを見て、彼女を助けるために客席から舞台に駆け上がった男を、愛人と知って殺害!
観客が騒然とする中、「喜劇は終わりました」のカニオの一言によって、幕を閉じます。
この曲での一番の聴かせどころは、カニオの歌う第1幕終幕の「衣装をつけろ!」
妻の不貞を知っても、怒りや悲しみを心の奥にしまいこみながら、
顔に白粉を塗って、客を笑わせるために道化芝居を演じなければならない、喜劇役者の悲しみを歌ったこの曲。
共感される男性は、決して少なくはないでしょう。
この歌が終わった後のカニオのすすり泣きから、
生身の人間と道化役者、現実と芝居というこのオペラのテーマが悲劇的・感動的に歌いあげられる有名な間奏曲への流れ…!!
若き日のドミンゴの真迫の演技に心打たれるこのディスク、オペラが苦手な私がお薦めできる一枚です。