最近聴いたCD

M.ラヴェル:バレー音楽『マ・メールーロア』 

クラウディオ・アバド指揮  ロンドン交響楽団


『マ・メール・ロア』とは、童話作家ペローの作品中に物語の語り手として登場する、「ロア母さん」を意味するフランス語(だそうです)。

元々は、子供好きだったラヴェルが、友人の二人の子供のために作曲・献呈された作品で、

ペローの童話も含んだ「マザーグース」を題材にしており、

「眠れる森の美女のパヴァーヌ」「親指小僧」「パゴダの女王レドロネット」「美女と野獣の対話」「妖精の国」の5曲からなる、四手ピアノ連弾用の組曲。

翌年、この連弾用組曲をそのまま管弦楽組曲に編曲。

更に同年、パリ芸術劇場の支配人より、バレー用音楽に編曲するよう依頼され、

曲順を入れ替え、新たに「前奏曲」「紡ぎ車の踊りと情景」、そしてそれぞれの場面転換のための「間奏曲」を追加して、完成に至りました。

そのような経緯があり、『マ・メール・ロア』には、連弾ピアノ版・管弦楽組曲版・バレー版の3種類のスコアが存在します。


今日エントリーするのは、このうちのバレー版で、アバド/ロンドン響による演奏です。

管弦楽組曲版では、アンドレ・クリュイタンス/パリ音楽院管の1964年の来日公演がTV放映された時に見た、

指揮棒の先から音楽が紡ぎだされるような繊細な指揮ぶりが未だに脳裏に焼き付いて離れません。

しかし、バレー版でのみ演奏される、弦・木管・金管の美しい響が夢みるようなファンタジーを醸しだす「前奏曲」、

それに、異なる物語を繋ぎ合わせる「間奏曲」も、それぞれに前場面の余韻を漂わせつつ、次場面の雰囲気へと巧みに誘っていく味わい深い音楽で、

最近は、専らバレー版のみを愛聴しています。


バレー版では、前述した前奏曲に続き、

以下のような流れで、意匠を凝らした間奏曲が曲間を繋ぎます。

第1場「紡ぎ車…」の軽やかな旋律は、妖精が飛び回るような楽しげなもの…

第2場「眠れる森の美女…」での、フルートやそれに続く木管群の神秘的な音色…

第3場「美女と野獣…」では、美女を表わすクラリネットが奏するワルツ(ラ・ヴァルスのような情熱の高揚が!)と、野獣の蠢きを思わせるコントラファゴットの掛け合いの妙…

第4場「親指小僧」での、オーボエ次いでイングリッシュホルンが奏する淋しげな歌と、鳥たちの囀りが醸す神秘的な雰囲気…

第5場「パゴダの女王…」では、中国の京劇を思わせるような旋律やタムタムの音で、幻想的な異国情緒が一層盛り上がり…

第6場「妖精の園」では、夢のような楽園に誘われ、柔らかな光の中、至上の幸福感に包みこまれていきます…。

若き日のアバドの瑞々しい感性に溢れた、心が洗われるような純粋無垢な音楽!

個人的には、アバド最高の演奏の一つだと思います。

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