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ズデニェク・フィビヒ:カンタータ『春のロマンス』 

フランチシェク・ヴァイナル指揮  プラハ放送交響楽団・合唱団他


スメタナ、ドヴォルザークと並んでチェコ国民学派を確立したと評されるフィビヒ(1850-1900)は、その作品にボヘミアの民謡や舞曲、更に民族伝説などを積極的に採り入れました。

中でも青年期に書かれた交響詩は、スメタナの『我が祖国』に先駆ける作品として評価されつつも、

その作品には、ドイツロマン派の影響が色濃く反映されているために、

前二者にも匹敵する業績を残したにもかかわらず、チェコ国民学派の作曲家としての印象は薄らいでしまいました。

しかし自己の内面的心情に沿って表現された、詩的で抒情的な作品は、かけがえのない美しさを湛えたものだと思います。


今日エントリーするのは、カンタータ『春のロマンス』…

春の訪れ間近と思わせた昨日の暖かさから一転、朝は−10℃と冷え込み、日中の積雪が30cmを記録した今日のような日にこそ、聴くに相応しい曲です。

同国の詩人・劇作家のヤロスラフフ・ヴィルフリッキー(1853-1917)のテキストに基づいた作品で、歌詞の内容は、概ね以下のようなもの。


地下の氷の宮殿に住む魔法使いが、寒さと孤独に耐えかねて、

ある日、嘗て話に聞き憧れていた、陽がさんさんと降り注ぐ地上に出るが、

彼が行くところ草木は枯れ、川は凍てつき、太陽は熱を失い、死の世界が広がってゆく。

絶望した彼は、自らの首をはねると…

その身体から、白い松雪草が芽生え、再び花々が爛漫と咲き乱れる季節が訪れる…

死に対する生の勝利を讃えたカンタータ、と言われています!


孤独さの中にほの見える、未だ見ぬ世界への憧れ…

烈風吹き荒ぶ、凍てつくような世界の描写…

蘇った春の情景や、その息吹に触れる密やかな喜びと、感動の高まり…

スメタナやドヴォルザークの作品のように、民族性に富んだ楽曲で大向こうを唸らせるような作品ではありませんが、

抒情を湛えた旋律からは、静謐な美しさが感じられます!

フレンチシェク・ヴァイナル指揮するプラハ放送響・合唱団・2人の歌手の、曲への共感が隅々にまで溢れた誠実な演奏からは、

曲に秘められた密やかな憧れが、しみじみと伝わってきます。

雪に埋もれながら春の訪れを待つ今の季節に相応しいこの作品、ご一聴されることをお薦めします。

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