その師サント・コロンブ(実在の著名なヴィオール奏者だが、実名・生年等詳細は不明)、
それに師の娘との恋愛も絡んだ確執を描いた映画『めぐり逢いの朝』に使われた16曲を集めたサントラ盤。
マレの作品が7曲、コロンブの作品が4曲、同時代の作曲家リュリ、F.クープランの作品が各1曲と、この映画の音楽を担当したサヴァールが作曲或いは編曲したものが3曲、収録されています。
そんな映画の存在すら知らなかった私がこのCDを入手したのは、
店内に流れていたヴィオラ・ダ・ガンバ(バス・ヴィオール)の雅な響きに惹かれて、思わず衝動買いしたからにほかなりません。
フランス・バロック期の音楽は、ルイ13世〜15世の三代にわたって続いた絶対主義的な支配を背景として、成熟したと言われています。
そして、有名な作曲家や演奏家の殆どは、ヴェルサイユ宮殿やパリの貴族社会をパトロンにして活躍した人々でした。
私がこの時代の音楽で聴いたことがあるのは、我家のCD棚に数枚ずつあるラモー、F,クープラン、マレなどの限られた器楽作品のみ。
しかも系統立てて聴いたことはなく、
ふと思いついた時にランダムにトレイに載せる程度ですので、
個々の作曲家の特徴を聴き分けるほどに、親しんでいるわけではありません。
ただどの作品を聴いても、当時の王侯貴族の生活を髣髴させる、華やかさの中にも落ち着いた品位の高い雅やかさが漂っており、
その雰囲気に身を委ねて、リッチな気分に浸るばかりでした。
しかしこのディスクには、映画の様々な場面に使われた、様々な表情の音楽が収録されています。
例えばマレの『サント・コロンブの墓』は、美しさの中にどんな作品よりも切々とした悲しみが伝わってくる音楽ですし、
同じく『パリの聖ジェヴィエーヴの鐘』からは、鬼気迫るような焦燥感が感じられます。
古楽器の持つ味わい深い音色もさることながら、
これまでフランスのバロック音楽に抱いていた一面的なイメージを、完全に払拭したこのサントラ盤。
フランスバロック音楽の持つ多面的な表現を知る上で、私には大変に貴重な体験を与えてくれたディスクです!