ただ当時のフルートは構造が不完全で、正しい音程をとることが難しかったらしく、今一つ気乗りしなかったようですが、
就職口を探すためにパリまでの旅費を必要としていたモーツァルトは、その費用を稼ぐために止むを得ず作曲に取り組み、
2曲の協奏曲と4曲の四重奏曲(k.285、285a・b、k.298)を完成させたと言われています…。
今日エントリーするフルート四重奏曲第3番ハ長調(k.285b)は、
第1楽章のスケッチの一部が、後の1792年に完成された歌劇『後宮からの誘拐』のスケッチに含まれているとか、
第2楽章は、1784年に書かれたセレナード第10番『グラン・パルティータ』の第6楽章と全く同じであるなど、
この時期に作曲されたものかどうかについては、未だ明確に実証はされていないようです…。
今から17〜8年前に、輸入CD専門店でイギリス製のQUAD ESL-63proというスピーカーから流れていた、
ベルギーの古楽器奏者のパイオニアのバルトルド・クイケンのフルート・トラヴェルソの音色を聴いて以来、この演奏のファンです。
この時に聴いた、鄙びた響きの中に聴き取れる素朴で雅な味わいの音色は、未だに忘れることができません。
残念ながら、我家ではこの時の響きを再現することは叶いませんが…。
一般的には、ヴィブラートをかけずに弦を弾く古楽器奏法には、時に演出過剰と感じるものがあり、正直あまり馴染めない私ですが、
クイケン兄弟たちによるモーツァルトの演奏は、
フルート・トラヴェルソのもつ素朴な雅やかさを最大限に活かすべく、深い見識に支えられたもの。
モーツァルトの曲が持つ素朴な味わいに耳を傾けることができる、類稀な演奏だと思いますが、
中でもこの第3番、特に第2楽章の変奏曲の持つ味わいの深さは、秀逸なものだと感じました。