そこでブラームスに作曲の才能を認められ、出版社に作品を推薦するなどの有力な後押しを受けることができました。
彼は才気に溢れた人で、その才能に私淑して教えを請うた一人にシェーンベルクがいます。
ご承知のようにシェーンベルクは新たな音楽技法(12音技法)を生み出し、21世紀の今日でもしばしば話題に挙げられる作曲家ですが、
後期ロマン派音楽の世界にとどまったツェムリンスキーは、今日に至るまでマーラーの後塵を拝し続けることとなり、
彼の作品で比較的世に知られているのは、『抒情交響曲』くらいではないでしょうか。
ところで、ツェムリンスキーの弟子の一人に、後にマーラーの妻となったアルマ・シントラーがいました。
容姿端麗で才気に溢れた彼女は、ウィーン社交界の花であり、一流の芸術家しか相手にしなかったそうですが、
そんな彼女は、当時将来を嘱望されていたツェムリンスキーを、自らの音楽の師に選びました。
しかしアルマとの結婚を考え始めた彼の前に表われたのが、ウィーン国立歌劇場の指揮者兼音楽監督の地位を射止めたばかりのマーラー…
地位も名誉もある男性の出現に心が傾いたアルマを、繋ぎ止めるすべもなく、身を引いてしまったツェムリンスキー…。
閑話休題。今日エントリーする弦楽四重奏曲第1番は、ウィーン音楽協会に入会し、ブラームスの影響を受けていた1896年に完成されたもので、
アルマと出会っていたかについては、不明です。
第1楽章は、青春の歌。
ほのかに漂う慕情と、密やかに楽しげな舞曲からは、春の到来を喜ぶ気持が感じ取れます。
第2楽章は、スキップするように弾んだ、愛らしく無邪気な音楽。
第3楽章は、意を決したような歩みを感じさせる音楽ですが、
情熱が掻き立てられることもなく、穏やかに終わります。
第4楽章は、爛漫の春に浸りながら、ささやかな喜びを感じさせる音楽です。
ラサール四重奏団による演奏からは、
ブラームスの初期の傑作である弦楽六重奏曲にも似た若々しい青春の息吹に加えて、
誠実さや優しさが伝わってきます。
大変に素晴らしい曲なのですが、曲想がやや淡白に感じられます。
これは、前述したツェムリンスキーの行状等から推して、その情熱が聴き手にインパクトを与えにくい性格のものなのでしょう。
しかしながら、聴き込むほどに味わいが深まる曲であり、演奏です!