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F.メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番 op.12

イザイ四重奏団


メンデルスゾーン(1809-1847)は、作曲家としての業績もさることながら、1829年には、自らが発掘したバッハの『マタイ受難曲』の価値を見抜いた上で、復活上演したことでも有名です。

ほぼ一世紀近くにわたって埋もれていたこの偉大な作品の蘇演は、音楽界に多大な影響を及ぼしました。

一つは、全ヨーロッパでバッハ作品が再評価されるようになったことですが、

それ以上に重要なことは、『マタイ』の復活がきっかけとなって、過去の偉大な作品に対する注目度が、にわかに増大したと言われています。

それまでは、作曲家が亡くなってしまうと、その作品が顧みられることなど殆どなかった音楽界に、

過去の作品を見直し、蘇らせて今の聴衆に紹介するという音楽作法が定着し、

再現芸術家(=演奏家)の存在が、俄かに脚光を浴び始めたと言われています。


今日エントリーする弦楽四重奏曲第1番(op.13)は、

20歳のメンデルスゾーンがベルリンで『マタイ』を自ら指揮して復活上演し大成功を収めたあと、

イギリス・スコットランドへと旅行に出かけた際に、旅先で書かれたとされる作品。

作品番号と作曲順が逆になりますが、2年前の1827年に書かれた第2番(op.12)が、その年に亡くなったベートーヴェンの後期弦楽四重奏を意識した内容であるのと比べると、

第1番の方は、マタイの成功で肩の力が抜けたのか、異国の地で感じた旅情や感傷が活き活きと自由闊達に表現された、若々しく爽やかな作品に仕上がっています。


第1楽章は、初めて訪れた地で感じる新鮮な感動とメランコリーな郷愁が滲み出た音楽。
この慎ましやかさは、青年が旅先で出会った人へのほのかな想いが語られているのでしょうか…。

第2楽章は、異国情緒を感じさせる舞曲のような音楽。
私には、ボヘミア的な舞曲なかに、時折スコットランドのバグパイプが聴こえてくるのですが…。

第3楽章は、宗教的とも感じられる清らかな感動が漂います。

燃えるような情熱が爆発するように開始される第4楽章冒頭。
それに続いて、この時のスコットランドの旅で着想され、
後年1842年に完成した交響曲第3番の終楽章とよく似た情熱的な音楽が展開され、
最後は黄昏時に望郷の念を思い起こすように、静かに曲は終わります。

イザイ四重奏団による演奏を聴いていると、いつの間にか若き日の甘酸っぱい感傷の世界に包まれてきます。

この四重奏団の瑞々しい抒情を湛えたメンデルスゾーン、お薦めします!

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