しかしながら、30歳台半ばから同棲を始めた敬虔なキリスト教徒のヴィトゲンシュタイン侯爵夫人から影響を受け始め、
更に49歳の時には長男を亡くしたことによって、
宗教にすがる心が強められたと言われています。
その後1861年には、ヴァイマールの楽師長を辞任してローマへと移り、彼女と正式に結婚しようとしましたが、
カトリックの掟で彼女の離婚が認められず、加えて複雑な財産相続の問題が絡んで結婚は頓挫。
失意のどん底に陥ったリストは、宗教を題材とした作品をより多く書くようになりました。
1861〜63年にかけて書かれた『2つの伝説』、
第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」は、
12世紀末に生まれ、フランシス修道会を興した人物が、森の中で小鳥たちに説教をする奇跡を描いたもの。
冒頭の小鳥たちの囀りや、森の木々にきらめく陽の光を思わせる美しいアルページョに続き、
噛んで含むように訥々と語られる旋律は、聖フランチェスコの鳥たちへの啓示を表現しているのでしょう。
そして、やがて訪れる栄光に満ちたクライマックスの感動!
第2曲『海を渡るパオラの聖フランチェスコ』は、
15世紀の初めに生まれ、生涯にわたって清貧を貫くことにより人々の信望を集めた人物が起こした奇跡の一つを描いたもの。
イタリア本土とパレルモのある島とを隔てるメッシーナ海峡を、マントに乗ってわたる姿を描いたものです。
瞑想的な呟きで開始され、
荒れた大海原を渡りきろうとする圧巻の奇跡が描かれています。
そして遠くで鳴らされる鐘の音に感動を蘇らせつつ、消え入るようなエンディング…。
エントリーする演奏は、ウィルヘルム・ケンプが55歳だった1950年に録音されたもの。
日本では、技巧的に劣るものの音楽の内面に踏み込んだ精神性を重んじるピアニストとして高く評価されているようですが、
この2曲の演奏を聴くと、精神的な高揚感は申すまでもなく、
ヴィルトゥオーソピアニスト顔負けの超絶的なテクニックで、曲を感動的に弾き切っているように思います。
とりわけ、第2曲での物凄い迫力は圧巻!
モノラル録音ですが、ケンプのイメージを払拭する意味でも、一聴されることをお薦めします。