様式的には古典派音楽のように均整の取れた構成を保ちつつも、
ロマン派音楽の先駆けを思わせるように、何物にも束縛されない自由闊達な精神が横溢した、
実にのびのびとした楽曲が展開されます。
この曲は、そんな両者のバランスが絶妙にマッチしているという点で、ベートーヴェンの作品中でもとりわけ好きな一曲です。
エントリーした演奏はLP時代からの愛聴盤で、初めて聴いたのは確か二十歳の頃だったと思います。
ベートーヴェンのオーケストラ曲と言えば、その当時の私には、深い瞑想と人間の情念を抉り出すようなフルトヴェングラーの演奏以外は受け容れることができなかったのですが、
ところがバックハウスのピアノ、イッセルシュテット指揮するウィーン・フィルの、微妙に変化しながらも淀むことのない流水のような自然体の演奏に、
嘗て体験したことがない深い味わいを感じ、たちまち惚れ込んでしまったことを、今でも鮮明に覚えています。
爾来40年以上、時代はLPからCDへ……
我家のプレイヤー、アンプ、スピーカーの買い替えに伴って、再生音も大きく変化しましたし、
聴き手である私の感性も大きく変化している筈なのですが…。
今回エントリーするにあたってあらためて聴き直したこの演奏からは、
様々な条件の変化を超越して、悠揚迫らぬ態度で奏でられるピアノとオケの泰然自若とした格調高い演奏が、味わい深く伝わってきました。
時代の変化にもかかわらず伝え続けられる不滅の芸術を目の当たりにできる、素晴らしい曲であり、演奏だと思います。