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J.S.バッハ:イギリス組曲第1番

アンドラーシュ・シフ(ピアノ)


『イギリス組曲』という曲集については、音楽学者フォルケルが記したように、

前奏曲、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、そして任意の一曲からなる組曲で、

ある高貴なイギリス人のために書かれた作品

その程度の意味しか持たないようです。

『フランス組曲』は演奏が比較的容易で、優雅な曲が多いのに比べ、

こちらは曲が長大で、かなりの演奏技術を要し、形式美を誇る作品と言われています。

『フランス組曲』が二人目の妻アンナ・マグダレーナの練習用に編纂された『音楽帖』に、

『インヴェンション』『平均律』が、10歳の長男の練習用に編纂された『ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集』に引用されるなど、高い芸術性を有する作品が教育用として使われていますが、

『イギリス組曲』はそういうことはなく、作曲にあたって念頭に置いた人物への、格別な敬意が込められた証左とも考えられています。


エントリーするのは、シフが1988年に録音されたもの。

陰影に富んだ柔らかい響き、細部の緻密な彫琢が際立って美しさは、

あたかも湧き出ずる泉が、陽の光に照らされて輝くような清冽な抒情を湛え、

第1番の曲想に合致した素晴らしい演奏だと思います。


清らかな楽想がとめどもなく湧きだすような、第1曲「プレリュード」

清冽な谷川の流れを思わせる、第2曲「アルマンド」の透明な美しさ!

静的な躍動感と、心が弾むような躍動感が対照的な第3、4曲のクーラント

静謐さの中、微かに大気が舞う気配に心動かされる、第5曲「サラバンド」

第6曲、長調と短調による2つの「ブーレ」は、楽しげな表情の変化が印象的なもの

第7曲「ジーグ」は、右手の真似をする左手の旋律は、幼い姉妹のお喋りを思わせる、愉しい音楽です!


厳めしい表情のバッハとは一線を画したものですが、瑞々しく且つ端正な、愛すべきバッハ演奏だと思います!

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