前奏曲、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、そして任意の一曲からなる組曲で、
ある高貴なイギリス人のために書かれた作品
その程度の意味しか持たないようです。
『フランス組曲』は演奏が比較的容易で、優雅な曲が多いのに比べ、
こちらは曲が長大で、かなりの演奏技術を要し、形式美を誇る作品と言われています。
『フランス組曲』が二人目の妻アンナ・マグダレーナの練習用に編纂された『音楽帖』に、
『インヴェンション』『平均律』が、10歳の長男の練習用に編纂された『ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集』に引用されるなど、高い芸術性を有する作品が教育用として使われていますが、
『イギリス組曲』はそういうことはなく、作曲にあたって念頭に置いた人物への、格別な敬意が込められた証左とも考えられています。
エントリーするのは、シフが1988年に録音されたもの。
陰影に富んだ柔らかい響き、細部の緻密な彫琢が際立って美しさは、
あたかも湧き出ずる泉が、陽の光に照らされて輝くような清冽な抒情を湛え、
第1番の曲想に合致した素晴らしい演奏だと思います。
清らかな楽想がとめどもなく湧きだすような、第1曲「プレリュード」
清冽な谷川の流れを思わせる、第2曲「アルマンド」の透明な美しさ!
静的な躍動感と、心が弾むような躍動感が対照的な第3、4曲のクーラント
静謐さの中、微かに大気が舞う気配に心動かされる、第5曲「サラバンド」
第6曲、長調と短調による2つの「ブーレ」は、楽しげな表情の変化が印象的なもの
第7曲「ジーグ」は、右手の真似をする左手の旋律は、幼い姉妹のお喋りを思わせる、愉しい音楽です!
厳めしい表情のバッハとは一線を画したものですが、瑞々しく且つ端正な、愛すべきバッハ演奏だと思います!