最近聴いたCD

A.ヴィヴァルディ:バスーン協奏曲 RV484 他4曲 

ミラン・トゥルコヴィッチ(バスーン)  
イタリア合奏団


バスーン(=ファゴット)と言えば、チャイコフスキーの『悲愴交響曲』やホルストの『惑星』などでソロをとる低音楽器の一つとして印象に残る場合もありますが、

大方は「オーケストラの中の背景として使われる楽器」というイメージが強いもの。

事実この楽器のために協奏曲を書いた有名な作曲家と言えば、モーツァルト(1曲)くらい…。

そんな中で、36曲ものバスーン協奏曲を書いたヴィヴァルディ(1678-1741)は、極めて稀な存在ということになります。

ただ、それほど多彩な音色や表情を有するとは思えない低音の木管楽器がメインとなって、延々と旋律を奏で続ける音楽を聴くことは、

私のような素人にとっては決して魅力のあるものではありません。

エントリーしたディスクも、レコ藝の評価を読んで、興味本位に買っただけのもので、大して期待はしていませんでした。


しかし、ディスクの最初に収録されているホ短調(RV484)を聴いた時、

静謐さの中に漂う哀愁と、独特の温かみを持ったバスーンの大らかな響きに魅了されてしまいました。

コンタリーニ宮殿という大変に素晴らしい響きを有した収録会場に加えて、

(多分)ワンポイント録音だからこそ捉え得た、アコースティックな会場の雰囲気が伝わってくるからだと思います。

このディスクには、他にも4曲のヴィヴァルディのバスーン協奏曲が収録されていますが、

全ての曲でイタリア合奏団の美しく柔らかな弦の音色と、バスーンの響きに酔いしれながら聴き終えることができましたし、

今日改めて聴いても、その印象は変わりませんでした。


ソロを吹くトゥルコヴィッチはライナーノートで、

「これらの曲が書かれた18世紀の演奏習慣にならって、演奏家が、スコアを創造的に解釈するという本来の立場に立ち還り、即興的なフレーズやアゴーギクを加えるという形で“作曲のプロセス”に参加し始める時、これらの音楽は劇的な変化をみせる」

このように語っています。

確かに近年、このような風潮に基づいた演奏が主流となっているようですが、

時に過激に過ぎて、耳障りに感ずることも少なからず体験しています…。

しかしながらこのディスクに収録されたそれぞれの曲は、私どもの年代の愛好家にとっては、実に則をわきまえた好ましさの中に、曲ごとの個性が表現された演奏と映ります。

一聴をお薦めしたいディスクです!

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