1805年に第23番『熱情』(op,57)が完成してからは、4年間の空白期間が置かれました。
この間、交響曲第4〜6番、ピアノ協奏曲第4〜5番、弦楽四重奏曲第7〜10番、チェロソナタ第3番などの各ジャンルにおける傑作群が誕生しました。
1809年に書かれたピアノソナタ第25番は、同年に書かれた24番及び26番のソナタとともに、カンタービレ期の作品とする見解もあり、
前作『熱情』とは曲想が大きく異なっており、
いずれもが私的な幸福感や甘い感傷が表現された作品です。
中でもこの曲は、作曲者自身が出版に際して「ソナチネ」と冠するように指示したと言われるように、演奏が平易で、かつ優しい歌心に満ちた音楽。
第1楽章に「かっこう」の鳴声を髣髴させるこの曲は、ピアノの発表会何度か聴いたことがありますが、
感性の豊かな子供によって弾かれると、ディスク化された演奏を聴くよりも、遥かに楽しく抒情的な曲だと感じたことを経験しています。
今日エントリーするのは、ポリーニによる演奏です。
申すまでもなく彼は、ギリシャ彫刻にも例えられる高い芸術性と、透徹したピアニズムを有する現代最高のピアニストの一人と称される人。
曲に新規さを求めるあまりに、枝葉末節にこだわり、時に姑息とも感じられる演奏が数多くディスク化されている昨今、
楽譜を徹底して読み込み、研究し尽くし、納得した上で初めてコンサートにかけると言われるポリーニの演奏は、さすがに括目に値するもの。
第1、3楽章などは、「これが今まで聴いてきたのと同じ曲?」と思うほどの自由闊達さは、演奏の好き嫌いを超越して、目から鱗が落ちるような思いがします。
中でも特筆すべきは第2楽章!
メンデルスゾーンの無言歌『舟歌』を想起するロマン的な楽章ですが、
アポロ的ともいえる静謐な穏やかさの中に、ほのかなメランコリーとノスタルジーが漂うこの演奏は、まさに神品とも言える美しさ!!
ポリーニの奏でる静謐で穏やかな境地は、私の憧れの境地でもあります。
彼のベートーヴェン演奏に異を唱える方にも、是非とも味わっていただきたい、至高の音楽だと思います。