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エルッキ・メラルティン:ピアノ組曲『悲しみの園』

舘野 泉(ピアノ)


フィンランドの作曲家メラルティン(1875-1937)は、10歳年上のシベリウスの陰に隠れてしまって知名度は低いのですが、20世紀初頭のフィンランド音楽の黄金期を築いた功労者の一人。

作風は概ね民族主義的であるとされていますが、

祖国フィンランドでの独立の機運が高まる中、その潮流から外れて、自らの内なる世界へと目を向けた作品を書くようになりました。


今日エントリーするピアノ組曲『悲しみの園』は、1910年代のまさにそんな時代に作曲されたもので、メラルティンの代表作とされるもの。

標題が付けられた5曲によって構成される小品集で、夢幻の世界に佇みながら、過ぎ去りし日をおぼろげに回顧するような趣を有した作品です。


第1曲「われら二人」
 頼りなげに短調と長調の間を穏やかに揺れ流れる旋律は、薄いヴェールに包まれた遠い過去の想い出をふと蘇らせるような…、そんな風情を醸す美しい作品です。

第2曲「愛の小径」
 心の奥深くに秘められた若き日々の回想、中間部では秘められた琴線に触れたが如くに、感極まるような懐かしさが蘇ります。

第3曲「乞食の子の子守歌」
 標題の意味はよく分かりませんが、優しい歌や遠くを見つめるような淋しげなまなざし…、慈しみに溢れた佳曲です!

第4曲「雨」
 アルペジオで奏でられる天空から降りしきる雨の描写は、サン=サーンス『動物の謝肉祭』の「水族館」を髣髴するような儚いペーソスを湛え、静かに消え入るように終わります…。組曲中最も有名な作品!

第5曲「孤独」
 暗闇の中でじわじわと忍び寄る虚無感、自らの置かれた定めに身を委ねるような、内省的な音楽です。


ピアニストの舘野泉さんは、決して北欧音楽だけに固定されたスペシャリストではないこと、シューベルトのソナタ演奏などで十分認識はしていますが、

この演奏も抒情に偏った北欧音楽とは一線を画した、氏特有のほのかな味わいを有する素晴らしいものと感じます。

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